四十七 聞き込み(一)

 釈然としないまま、彩芽たち生徒は下校した。

 生徒たちは皆、沙也加が会長でないことについて話していた。

「蘭ちゃん、さっきのことなんだけど」

 彩芽は校門までの道すがら、蘭に切り出す。

「彩芽の言いたいことは、分かるわ」

「うん。みんな、沙也加先輩に投票したって言ってたのに、何でだろう⋯⋯」

「明らかに、何かがおかしいわ」

「⋯⋯私たちでさ、ちょっと調べてみようよ。ほら、花組の子たちに聞き込みするとかさ」

「そうね。やってみる価値はある。明日、さっそく花組に行きましょう」

「うん。じゃあ、また明日」

「ええ。また明日」


 翌日。

 彩芽は登校すると、手早く朝の準備を済ませた。

 今日、蘭とはまだ会っていない。だからこそ、いつ蘭が来てもいいようにしておきたかった。

 教室の扉が開いた。そこには蘭が立っており、早足気味に席につく。

 蘭は素早く準備を済ませると、勢いよく立ち上がった。

「行くわよ」

 早口で言い、出入口へと向かっていく。彩芽も慌てて続いた。


 一年花組は、雪組の二つ隣にある。

 朝の準備をする生徒、他の生徒とおしゃべりをする生徒、たった今教室に入った生徒⋯⋯こちらも、いつもの雪組と変わらぬ朝があった。

 しかし、扉を開けたのが花組の生徒ではない彩芽たちだったため、皆がこちらを見ている。

「北大路さんだよね? どうしたの?」

 人垣の中から数人の生徒がやって来て、尋ねる。

「少し、聞きたいことがあるの。いいかしら」

「うん、いいけど」

「生徒会長選挙に関することで、何か変わったことはなかったかしら」

「変わったこと⋯⋯?」

「ええ。何でも構わないから、教えてくれるかしら」

「えー、ひかりが立候補したことじゃない?」

「言えてる!」

「分かる!」

 生徒たちは口々に同意する。

「ひかりちゃんって、どんな子なの?」

 彩芽が尋ねる。

「ひかりは⋯⋯引っ込み思案で、無口かな。何ていうか⋯⋯影が薄い。いるかいないか、分からないことがあるくらい」

「そうなんだ⋯⋯ありがとう」

「あっ、あたし、今月の初めに誰かと話してるの見たよ」

「誰か?」

 蘭が鋭く反応した。

「うん。よく聞こえなかったけど、敬語使ってたから先輩じゃないかな」

「それは、いつの話? 何時頃?」

「え? えーっと⋯⋯今月の五日くらいだったよ。時間は⋯⋯最終下校時刻が近かったから、五時くらいかな」

「ありがとう。彩芽、行くわよ」

「えっ、う、うん」

 蘭が踵を返した。彩芽も礼を言い、雪組へと戻った。

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