四十六 投票

 さらに翌日の放課後。

 彩芽たちは、投票に来ていた。

「彩芽、誰に投票するの?」

 クラスメイトが尋ねる。

「私は、沙也加先輩かな」

「あたしも同じ! 一番しっかりしてたしねー」

 講堂に置かれた投票箱の前には、長い列ができていた。

 ようやく、自分の番がやってきた。

 彩芽は投票用紙に「東野沙也加」と書き、投票箱に入れた。

 誰もが、東野沙也加の当選を確信していた。

 そのせいか、開票日まで生徒会長選挙のことは話題に上らなかった。


 十二月九日。いよいよ開票日となった。

 普段、放課後は皆校舎を出ていく。しかし、今日は演説の日と同じく、講堂へ向かう生徒が多かった。

 皆、誰が新しい生徒会長になるのか興味があるのだろう。彩芽たちも、その流れに従っていた。

 講堂は、座る場所を探すのに時間がかかるほど、混み合っていた。

 彩芽たちは、何とか空席を見つけて座った。講堂の出入口近くには、座れずに立っている生徒が目立った。

 開票が始まった。

 開票は、得票数が少ない生徒から発表し、最後に会長となる生徒が発表されるシステムだった。

「それでは、開票します。新生徒会長は、一年花組、大森ひかりさんです。おめでとうございます」

  瞬間、会場がどよめく。皆、口々に「なんで?」「マジ?」とつぶやいていた。

 彩芽も、不思議だった。投票の列に並んでいる間、ほとんどの生徒が沙也加に投票すると話していた。

 にもかかわらず、沙也加は落選。これは、どういうことだろうか。

 拍手はまばらだった。皆、戸惑いが大きく、どのようなリアクションを返せばいいか分からないようだった。

「それでは大森さん、コメントをお願いします」

 ひかりが舞台袖から出てきた。

「こ、今回は、わた、私を、選んでいただき、あ、ありがとうございます。い、至らない、ところも、あ、あるかと思い、ますが、よ、よろしくお願いします!」

 相変わらず震える声でコメントをするひかり。

 演説の時はまばらな拍手があったが、今回は一人たりとも拍手をしなかった。

 拍手をしなかったというよりも、会場のざわめきが彼女の言葉をかき消した、という方が正しかった。


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