四十五 選挙演説

 十二月一日。放課後になると、彩芽とクラスメイトたちは講堂へ向かった。

 次の生徒会長が誰になるのか皆興味があるらしく、講堂へ向かう道は混み合っていた。

 講堂の座席はほぼ全て埋まっていたため、彩芽は席を確保するのに苦労した。

 何とか席を確保して着席すると、選挙演説が始まった。

 入口で配られていた資料によると、立候補者は全部で三人いて、彩芽と同じ一年生が二人、二年生が一人だった。

「それでは、演説に移ります。一人目は、一年花組の大森おおもりひかりさんです。大森さん、よろしくお願いします」

 司会が促すと、舞台袖から生徒が出てきた。ひかりはどこか怯えているように見える。しかも右手と右足が同時に出ており、緊張していることが手に取るように分かった。

「み、皆さん、こん、にちは。お、大森、ひかり、です。皆さんは、が、学校生活に、満足、していますか? こうひ⋯⋯こうしたら、もっと、よくなるのに、って思ったこと、あ、ありませんか? 私も、そう、思ったことが、あります。な、なので、私が生徒会長に、な、なったら、い、意見箱を、今より、もっと、活用します。そのためには、み、皆、さんの力が、必要です。よ、よろしく、お願いします⋯⋯あっ、い、以上です」

 ひかりは一礼すると、逃げるように戻っていった。拍手もまばらだった。

「大森さん、ありがとうございました。続きまして、一年月組、山吹莉子やまぶきりこさんの演説に移ります。山吹さん、よろしくお願いします」

 また、舞台袖から少女が出てきた。莉子は選挙管理委員会の面々と同じく、生真面目そうな少女だった。どこか近寄り難い雰囲気をまとっている。

 莉子は一礼し、口を開いた。

「皆さん、こんにちは。山吹莉子です。皆さんは、『時は金なり』という言葉を知っていますか? この言葉は、『時間はお金と同じくらい大切なものだ』という意味です。私たちが中学生でいられる時間は、三年しかありません。一秒足りとも無駄にはできません。そのため、私の公約は五分前行動を校内に浸透させることです。これを実現するために、校内で鳴るチャイムを廃止します。私は、皆さんに投票していただくことで、私たちのかけがえのない時間を守れると信じています。よろしくお願いします。以上です。ご清聴、ありがとうございました」

 莉子は最後に一礼すると、舞台袖に戻っていった。

「山吹さん、ありがとうございました。最後は、二年雪組、東野沙也加ひがしのさやかさんの演説です。東野さん、よろしくお願いします」

 最後の生徒が出てきた。制服をきちんと着たその少女は、少し緊張しているようだった。

「皆さん、こんにちは。東野沙也加です。皆さんは、好きな学校行事はありますか? 私は、文化祭がとても好きです。準備の時の賑わい、当日の空気⋯⋯どちらも大好きです。私は文化祭の時、毎年『もっと賑やかだったら、楽しいのに』と思っていました。そのため、私の公約は学校行事を活性化することです。しかし、これは私一人では達成できません。皆さん、私に力を貸してください。よろしくお願いします。以上です」

 沙也加は一礼すると、舞台から去った。

「これで、全員の演説が終わりました。候補者の皆さん、素晴らしい演説をありかとうございました。明日の放課後は、体育館で投票を行います。皆さんの一票が、学校を変えることになります。ぜひ投票をお願いします。以上で、選挙演説を終わります。ありがとうございました」

 司会が一礼すると、皆、席を立った。

 去っていく生徒たちは皆、誰に投票するかという話をしていた。

 彩芽は、沙也加に投票することに決めた。

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