四十三 犯人の正体
次の日。彩芽は電車に乗っていた。
今は朝の通勤・通学ラッシュの時間帯で、車内はスーツを着たサラリーマンや制服姿の学生で埋め尽くされている。
彩芽は壁に寄りかかって、スマートフォンのロックを解除する。目的はSNSだ。
昨日の彼女が本当にSNSに投稿したとしたら、検索をかければヒットするはずだ。
(また消されてないといいな⋯⋯)
彩芽はそれらしきワードを手当たり次第に打ち込み、検索ボタンをタップする。
「専門科目」と検索したところ、画像つきの投稿がヒットした。
本文には「K女学校 専門科目 No.6」と書かれていた。それ以外の詳細は書かれていない。用紙の上部にあったはずの「第一学年 二学期末試験」の文字もスタンプを重ねて消されている。しかし、出題内容は最近習ったものばかりだった。明らかに昨日見た期末試験の問題だと分かった。
他の検索結果も見たが、既に削除されたのかNo.1から5の投稿はヒットしなかった。
彩芽は投稿が削除されないうちに、投稿に添付されている全ての画像を保存した。投稿のスクリーンショットも撮っておいた。
学校に着いた彩芽は、まっすぐ職員室に向かった。
彩芽が職員室の引き戸を開け、「失礼します」と呼びかけると、すぐに教師が来た。
「どうしたの?」
「一年雪組の
「藤宮先生? いるよ。呼んでくるね」
「お願いします」
教師が職員室に戻ると、すぐに藤宮教諭がやって来た。
「おはようございます。どうしましたか?」
「おはようございます。先生に、お話があります」
「話⋯⋯ですか?」
「はい。ここでは話しにくいので、中に入ってもいいですか?」
「えぇ、構いませんが⋯⋯」
藤宮教諭は戸惑いながらも、彩芽を職員室に入れた。
藤宮教諭が戸を閉めるのを確認して、彩芽は話し始めた。
「お話というのは、この間、期末テストの問題がSNSに投稿されたことなんです」
「はぁ⋯⋯」
「先生、これを見てください」
彩芽はスマートフォンを操作し、画像を表示した状態で差し出す。
「これが、どうか⋯⋯えっ」
藤宮教諭の目が見開かれた。
彩芽のスマートフォンには、今朝SNSで保存した、問題用紙の画像が表示されていた。
「これは⋯⋯」
「昨日、カフェで問題用紙の写真を撮って、SNSに投稿している人を見ました。それから、これ」
今度は画面に動画を表示し、また藤宮教諭に見せる。
「っ⋯⋯!」
藤宮教諭は絶句していた。
「あと、投稿のスクリーンショットも持っています」
「スクリーンショット?」
「投稿したアカウントのIDが映ってます」
「分かりました。九条さん、画像と動画を、全て渡してもらえますか」
「はい。メールでもいいですか?」
「構いません。ありがとうございます」
胡蝶館女学校では、クラスごとにメールでの連絡網があり、自分のクラスメイトや担任のアドレスは全員分登録しておく必要がある。
彩芽はメールアプリを起動し、藤宮教諭のメールアドレスを呼び出す。件名に「テスト問題流出事件の証拠」と書き、持っている証拠を全て添付した。
送信ボタンをタップした。
「九条さん、ありがとうございました」
「いえ。こちらこそ、ありがとうございました⋯⋯あっ」
「どうしましたか?」
彩芽はカバンの中を探り、昨日拾った生徒証を差し出す。
「これ、昨日拾いました」
「⋯⋯ありがとうございます。持ち主に返しておきますね」
藤宮教諭は一瞬驚いたが、すぐに生徒証を受け取った。
「失礼します」
彩芽は藤宮教諭に一礼すると、教室へ向かった。
昼休み。学校は、試験問題漏えい事件の犯人が捕まったという話でもちきりだった。
「彩芽ー、お昼食べよー!」
「うん、今行くー!」
彩芽はランチトートを持って、クラスメイトのもとへ向かう。
「そういや、テストの問題漏れた事件、解決したんだってね」
「うん、そうみたいだね。結局、誰がやってたの?」
「何か、高等科の先輩だって。白雪先輩⋯⋯だったかな」
「へぇー」
「カフェのフリーWi-Fiを使って書き込めばバレないって思ったらしいけど、生徒証落としてて、それでバレたみたい。誰が拾ったんだろうね?」
「そうなんだー」
彩芽は名乗り出たいのをこらえ、玉子焼きを口に入れた。
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