二学期末試験編

三十九 マイブーム

 体育祭から一ヶ月が過ぎ、十一月になった。

 あの日、酒井さかいりらは彩芽たちとの戦いの末に死んだ。戦死といえるのかも怪しいほど、あっさりとした死だった。あの後すぐに事が発覚し、体育祭どころではなくなった。体育祭は午後の部が中止となり、生徒たちは全員家に帰された。

 彩芽は、りらが死ぬところを見ている。そのため、自分が犯人として罪に問われるのではないかと気が気でなかった。しかし、どういうわけか恐れていたことは起こらなかった。ひとまず安心したが、ひと月がたった今でも少し怯えている。

「席についてください」

 担任の藤宮ふじみや教諭が呼びかけた。帰りのホームルームが始まるのだ。

「もうすぐ、二学期の期末試験があります。皆さん、今回も頑張ってくださいね」

 そう言い、藤宮はプリントの束を一番前の席に配っていく。

 彩芽の手元にプリントが回ってきた。

 ひとまず束を後ろに回し、プリントに目を落とす。それは、期末試験の範囲表だった。二学期は登校日が最も多い学期なだけあって、範囲も一学期より広かった。

 帰りのホームルームが終わると、雪組の生徒たちは皆、思い思いの行動を取り始めた。教室を出ていく者、置いてある教科書をカバンに詰める者、帰らずにおしゃべりに興じる者と様々だった。

 彩芽も試験勉強に使う教科書や教材をカバンに詰め、下校することにした。

「彩芽、バイバーイ」

「うん、バイバイ」

 クラスメイトに別れを告げ、彩芽は教室を後にする。

 今日はこの後の予定がないため、カフェに行くことにした。最近、彩芽はカフェで勉強することがマイブームなのだ。

 行きつけのカフェは、乗り換え駅の近くにある商業施設の中にある。アクセスが便利なため、とても便利なのだ。


 電車に揺られ、乗り換え駅に着いた。

 その駅は多くの路線が乗り入れるターミナル駅で、今日も学校帰りの学生が行き交っていた。

 カフェ自体はチェーン店で、たいてい若者で賑わっている。

 彩芽はカフェに入り、飲み物と食べ物を注文する。飲み物はココアで、食べ物は日替わりのケーキ。これが彩芽にとっての「いつもの」で、今日のケーキはガトーショコラだった。

 カフェは先に注文してから注文の品を受け取って席につくシステムで、混んでいる時にはお盆を持って歩き回らなければならない。いつもは空いているが、今日は少し混んできている。席を確保するのに少し苦労した。

 空席を見つけ、腰を下ろす。近頃寒いので頼んだホットココアは、少し冷めてきていた。

 マグカップに口をつけ、ホットココアを飲む。じんわりとした温かさが心地よかった。

 彩芽はマグカップをお盆に置くと、勉強道具を取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る