三十八 結末

 二人が扉に目を向けると、そこには息を切らした蘭がいた。

「あ、彩芽⋯⋯!」

「ダメ! 来ないで!」

 彩芽は叫ぶ。

「ずいぶん余裕なの」

「えっ⋯⋯あぁっ!」

 顔を戻した時には、りらが切りかかってきていた。とっさに腕でガードしたが、斬撃をもろに食らった。彩芽はその場にうずくまる。とめどなく流れる血がコンクリートの地面を濡らしていた。

 ふいに、攻撃の手が止まった。

 彩芽が顔を上げると、りらは戦斧を手に立っている。

「⋯⋯あの子も片付けるの」

 りらのつぶやきを、彩芽は確かに聞いていた。

「蘭ちゃ──」

 知らせようとした時には、既に蘭が駆けてきていた。

「先輩であろうと、わたくしの友人を傷つけるのは許さない⋯⋯!」

「何人来ても同じなの」

 りらは二人を巻き込むように戦斧を振るった。

(もう、ダメだ)

 彩芽は諦めて刃を受けようとした。

 その時、金属がぶつかり合うような音が響き、火花が散った。

「彩芽を殺すなんて⋯⋯絶対に許さない!」

 驚くことに、蘭はりらと対等に渡り合っている。

「⋯⋯やってみたらいいの」

 りらが不敵な笑みを浮かべた。

(蘭ちゃんを、少しでも助けたい!)

 彩芽は援護射撃をすることに決めた。まだ傷は痛むが、そんなことは言っていられない。大変な時に助けないで、何が友達だ!

 彩芽はグリップを握る手に力を込めた。神経を研ぎ澄まし、狙いを定める。

(⋯⋯よし!)

 相手はこちらよりも格上だ。そしてこの戦いは、どちらが殺すか殺されるかだ。勝ちたければ、殺される前に殺さねばならない。四の五の言ってはいられない。

 彩芽は引き金を引いた。

 弾はまっすぐ、りらの心臓へと向かっていく。

(仕留めた!)

 彩芽は確信した。

 しかし、りらが上へと跳躍した。弾は乾いた音とともに、地面に落ちた。

(外した⋯⋯!)

 彩芽はめげず、次の弾を撃つ。りらはまた跳躍した。

(また、かわされた)

 彩芽は呆然と立ちつくす。弾はまた、乾いた音を立てた。

「あぁ──」

 蘭が息を飲んだ。

 蘭の見ている方向には、屋上のフェンスを乗り越えたりらがいた。

 彩芽の弾を跳躍でけたまではよかった。しかし、りらは真上ではなく後ろに跳躍してしまった。

(──ヤバい!)

 彩芽はりらに駆け寄る。

 祓魔師は魔力を持っているが、魔力は万能ではない。よって、空を飛ぶこともできない。

 このままでは、りらが落ちてしまう。彼女は敵で、殺さなければ殺されてしまう。しかし、こんな形で死ぬのは想定外だ。

 彩芽が手を伸ばすも、りらは既に手の届かないところにいる。

 スローモーションのように、景色がゆっくりと流れていく。

 彩芽の思いを裏切り、りらは真っ逆さまに落ちていった。


 何かが弾けたような音が響き渡った。

 二人はフェンス越しに恐る恐る下をのぞき込む。

 そこには、血だまりの上に力なく横たわるりらがいた。

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