三十七 犯人は

 彩芽は何とか階段を上りきり、屋上に繋がる扉を開いた。

 屋上は秋の日差しがダイレクトに差しており、十月だというのに少し暑く感じられる。

 屋上の真ん中には、少女が座り込んでいた。彩芽がずっと感じていた嫌な気配は、彼女を中心として発せられている。

 その時、彼女が顔を上げて汗を拭った。同時に、彩芽に気がつく。

 振り返った少女は、午前中に障害物競走で一位だった生徒──酒井りらだった。

 彼女は体操着ではなく、祓魔師の衣をまとっている。紅緒たちと同じ漆黒の衣で、差し色には黒っぽいピンクが入っていた。

「⋯⋯さっきの」

 りらはつぶやき、また下を向く。何かをしているようだ。彩芽には、彼女が何をしているのか分からなかった。

「⋯⋯あっ」

 次の瞬間、りらが何かを落とした。その時、彩芽の目は、落ちたものを確かに捉えていた。

 祓魔石だ。

 彩芽は慌ててりらの前に回り込み、見下ろす。

 そこには、百はあろうかという祓魔石が山のように積まれていた。

(犯人は、りら先輩だ!)

 彩芽はそう確信した。

「先輩、何してるんですか」

「⋯⋯関係ないの」

 りらはこちらを向かない。

「それ、祓魔石ですよね? 何で先輩が持ってるんですか」

「⋯⋯知らなくていいの」

 やはり、りらはこちらを向かない。頭を上げることもない。

「下では、どのクラスも騒ぎになってます。先生たちは、緊急会議をしてます」

「⋯⋯関係ないの」

 見向きもしない。彩芽は、ついに堪忍袋の緒が切れた。

「関係なくありません! 先輩のせいで、みんな困ってるんですよ!?」

「⋯⋯うるさいの!」

 りらは持っていた祓魔石を山に戻すと、ついにこちらを振り返った。その表情は怒りに満ちている。

 手のひらの皮膚を乱暴に引っ張り、祓魔具を顕現させる。その手には、彼女の身長よりも大きな戦斧せんぷがあった。

「⋯⋯りら達のためにも、ここで倒れてもらうの」

 言うなり、戦斧を大きく振り回した。

 彩芽はすんでのところでかわす。あとコンマ一秒遅ければ、切り刻まれていた。

 彩芽も負けじと祓魔具を撃つ。しかし、どこを狙っても戦斧の刃で跳ね返されてしまう。

 新入生合宿の夜に戦った紅緒べにおも素早い攻撃だったが、りらはそれを上回っている。紅緒は半ばヤケを起こしたような攻撃だったが、こちらはそれよりもずっと洗練されている。

「防戦一方じゃ、勝てないの」

(攻撃しないと⋯⋯でも、撃っても撃っても当たらない⋯⋯!)

 彩芽が途方に暮れている、その時だった。

 屋上に入る扉が勢いよく開かれた。

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