三十五 事件発生

 午前のプログラムが全て終わり、いよいよ昼食の時間だ。

 生徒たちは皆、腹を空かして教室へ戻っていた。

 あとは、家庭科室へ保管してある弁当を取りに行くだけだ。

 一年雪組では、彩芽と蘭がその係を担っていた。

 二人はクラスメイト達から離れ、家庭科室へと向かっていく。

 家庭科室では、蓋をされた調理台の上に弁当の入った籠が並べられていた。

 一人一つずつ籠を持ち、二人は家庭科室を後にした。

「早く食べたいなー」

「はしゃがなくても、すぐに食べられるわよ⋯⋯ん?」

 彩芽をたしなめる蘭が、何かに気づいた。

「どうしたの?」

「何だか教室の方が騒がしいわ。何かあったのかしら」

「行ってみよう!」

 彩芽は走り出したかったが、弁当を持っている。

 二人はできるだけ早足で教室へ向かった。

 教室が近づいてくると、ざわめきは一層大きくなった。

「どうしたの?」

「あっ、彩芽。教室に置いてた祓魔石ふつませき、全部なくなってて⋯⋯!」

「えっ!?」

 慌てて教室の扉を開けると、教卓に置いてあったはずの箱──全員分の祓魔石が入った箱がなくなっていた。

「何で⋯⋯!?」

藤宮ふじみや先生は、今教室にいらっしゃるの?」

 蘭がクラスメイトに尋ねる。

「うん、いるけど⋯⋯」

「呼んでちょうだい」

「分かった!」

 クラスメイトが担任──藤宮教諭を呼ぶ。

「何ですか?」

 藤宮教諭は平静を装ってはいるものの、かすかな動揺が見えた。

「先生、祓魔石がなくなったのは雪組このクラスだけですか」

「今、他のクラスにも確認してもらっています」

 その時、教室に備えつけてある内線が鳴った。

 藤宮教諭が飛んでいき、受話器をひったくるように取る。

「はい、一年雪組です。こちらは全部なくなっていました⋯⋯はい⋯⋯はい。分かりました。失礼します」

 受話器を置いた藤宮教諭は、生徒たちに向き直る。

「今、連絡が入りました。他のクラスや学年も、このクラスと同じく、全てなくなっていたようです⋯⋯こんなことは、前代未聞です」

 教室がどよめく。生徒たちの間に、不安が広がっていく。

「これから、私たち教員で話し合いと状況の確認をします。皆さんは、お弁当を食べていてください。警察を呼ぶ状況になった時のために、廊下で食べてください。教室に入ってはいけませんよ」

 藤宮教諭はそう言い残すと、職員室の方へと走っていった。


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