体育祭編

三十四 体育祭

 十月。今日は体育祭だ。天気は、まさに秋晴れといった様子である。

「開会宣言。皆さん、おはようございます。今日は、待ちに待った体育祭です。この日のために、私たちは一生懸命、練習に励んできました。練習の成果を十分に発揮できるよう、頑張りましょう。ご来賓の皆様、保護者の皆様、本日は早くよりお越しいただき、ありがとうございます。私たちの精一杯頑張る姿に、是非ともご声援を賜りますようお願いいたします。それでは、けがのないよう十分に注意し、楽しい、思い出に残る体育祭にしましょう。生徒会長、綾瀬あやせ凛子りんこ

 生徒会長が開会宣言をすると、どこかで拍手が上がった。

 次に、加賀美かがみ校長が壇上に上がる。

「開会の辞。皆さん、おはようございます。いよいよ体育祭がやってきました。緊張している人も、そうでない人も、今日はチーム全員で力を合わせて、頑張りましょう。皆さんの健闘を祈っています。胡蝶館女学校校長、加賀美撫子なでしこ

 加賀美校長は一礼し、壇上から下りた。

 次に、小麦色に日焼けした生徒が壇上に上がる。

「選手、宣誓! 私たちは、スポーツマンシップにのっとり、正々堂々戦うことを、ここに誓います!」

 また、拍手が上がる。いよいよ体育祭のスタートだ。


 午前の一番最初の種目は、二年生の障害物競走だ。

「間もなく、二年生の障害物競走が始まります。二年生は入場準備を開始してください」

 本部テントからのアナウンスが響く。

 ほどなくして、二年生が入場した。それぞれのクラスごとに固まって座っている。

 各クラスの第一走者三人が、スタートラインに立つ。

 ピストルの合図で走り出した瞬間、あちこちから声援が沸いた。皆、口々に自分たちの組を応援している。

 その中で、ひときわ速い生徒がいた。彼女は二年雪組の生徒で、他の走者が苦戦する障害物をスイスイと抜けていく。その様子は、まるで水が流れるようだった。

 彼女は二人の走者に大幅な差をつけ、一位でゴールした。結果、障害物競走は雪組の圧勝で終わった。

「今の先輩、すごかったねー!」

 彩芽は興奮した様子で、蘭に話しかける。

「そうね。見事なスピードだったわ」

「だよねー」

 彩芽はトートバッグから制汗スプレーを取り出す。しかし、手を滑らせて落としてしまった。

「あっ!」

 彩芽は転がっていく制汗スプレーを追いかけ、駆け出す。

 制汗スプレーは、近くの生徒の爪先にぶつかり、止まった。

「⋯⋯落とした」

 生徒は制汗スプレーを拾い上げ、彩芽に手渡す。

「ありがとう──」

 彩芽が顔を上げると、そこには障害物競走で月組・花組を圧倒した、あの生徒がいた。彼女は人形のように整った顔立ちをしていた。近くで見ると、髪にはインナーカラーが入っていた。

「⋯⋯あ、さっきの障害物競走、すごかったです! えっと⋯⋯」

「⋯⋯酒井さかい、りら」

 それが彼女の名前らしい。つぶやくと、りらは校舎の方へと消えていった。

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