三十三 思いの丈
「皆さん、今日は私のライブに来てくれてありがとうございます。今日はライブって言いましたが、私の思いを聞いてください」
再び、会場がざわめく。
「これから言うことは、主にお父さんとお母さんに関することです。聞きたくないという人は、会場を出てください」
莉々愛は今にも泣き出しそうに見えた。大勢の観客が、会場を出て行った。
残った観客は、彩芽を含む数人程度しかいなかった。
「ありがとうございます。じゃあ、始めます」
少し安心したような表情の後、莉々愛は息を吸い込んだ。
「お父さん、お母さん。私、もうアイドルやるの疲れました。今日この場を最後に、アイドル辞めます」
客席がどよめく。動揺が波紋のように広がった。
「今まで、レッスン代や交通費を出してくれたのは、すごくありがたく思っています。でも、お母さんは私がブレイクしてから変わってしまいました」
「私の知名度と稼ぐ金額に目がくらんで、休む間がないほど仕事をさせるようになりましたね。おかげで、うちは前よりいい暮らしができるようになりました。でも、仕事、仕事、仕事ばかりの生活で、私には友達がいなくなりました。芸能界に入る前からの友達も、みんな離れていきました。お母さんは、私に『お金を稼げて困ることはないのよ』と言いましたね。ふざけないでください。私のためではなく、自分たちの見栄と生活のためですよね⋯⋯最後に、一言だけ言わせてください」
莉々愛はマイクを口から離し、息を吸い込む。
「私は――宇佐美莉々愛は、親の満足のためにアイドルやってたわけじゃない! 子供の人生で遊ぶのも、いい加減にしろ!!」
莉々愛は肩で息をしていた。しゃくり上げるような声を出していた。
彼女が顔を挙げた時、重い荷物を下ろした時のような表情がそこにはあった。
彩芽が家で朝食を食べていた時のことだった。
桂一がテレビをつけると、ニュース番組が映った。
「次のニュースです。大人気アイドル、宇佐美莉々愛さんが引退を発表しました」
彩芽は牛乳を吹き出しそうになった。
すんでのところで踏みとどまり、テレビ画面に目を向ける。そこには、記者会見の映像が映し出された。映像の中で光るフラッシュが眩しかった。
会見で話しているのは、莉々愛だった。記者の質問に、笑顔で答えている。
そこにあのライブのような暗さはなく、代わりに心からの笑顔があった。
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