文化祭編

三十 接し方

 九月三日。楽しかった夏休みはあっという間に終わってしまい、既に二学期が始まっている。

 彩芽は、重い足取りで教室へと向かう。うれいているのは夏休みが終わったことではなく、蘭のことだ。

 彩芽は八月にあった本邸での一件以来、蘭と連絡をとっていなかった。蘭の過去を聞いた後、どう接すればいいか、連絡をとっていいのかも分からなくなっていた。

 おとついの始業式と昨日の授業日は、蘭の様子が違うような気がしてならなかった。そのせいか、上手く話しかけられなかった。三日目の今日は、上手く話しかけられるだろうか。不安でいっぱいだった。

 教室の引き戸を開け、中へと入る。

 蘭はもう、席に座っていた。

「お、おはよう」

「おはよう」

 蘭は平然としている。もう、気にしていないのだろうか。

 彩芽はカバンからノートを取り出し、ページをちぎり取る。手紙を書くのだ。

 シャープペンシルの芯を出し、しばし悩む。一行目に「元気?」と書き、すぐに消した。

(何書いてるんだ、私! 昨日もおとついも会ってるじゃん!)

 悩んでいるうちに、一限目が始まってしまった。

 彩芽は、一限目のほとんどの時間を手紙を書くことに費やし、蘭を心配する手紙を書いた。


 渡す機会がないまま、五限目が始まる直前になってしまった。

 彩芽は、今渡さなければ永遠に渡せなくなるような気さえしていた。

 あと五分で五限目が始まる。

 彩芽は勇気を振り絞り、蘭に声をかけた。

「……蘭ちゃん!」

「何かしら」

 蘭は驚いたのか、少し身体を震わせた後、返事をした。

「これ、読んで!」

 彩芽はノートのページに書いた手紙を差し出す。

「手紙……? 読んでいいかしら」

 蘭は戸惑っていた。

「うん」

 蘭は手紙を開き、読み始める。

 彩芽がその様子を見守っていると、蘭が吹き出した。

「こんなこと、直接言えばいいのに……大丈夫、私は平気よ」

 蘭は微笑んでいた。全ては、彩芽の思い過ごしだったようだ。


 五限目は学級会で、議題は文化祭でのクラスごとの出し物についてだった。

「前回はクラスごとの実行委員を決めましたが、今日はゆき組の文化祭の出し物について話し合います。意見がある人はいますか?」

 学級委員長が発言を促す。

 すると、挙手する生徒があちこちにいた。新入生合宿の実行委員決めの時とは大違いだ。

 学級会では、多くのアイデアが出された。カフェ、お化け屋敷、映画上映……どのアイデアも、文化祭の出し物の定番だった。

 しかし、途中で「もっとオリジナリティを出したい」と主張する生徒が現れ、学級会がふりだしに戻りかけた。

 それをすんでのところで阻止したのは、いつもは大人しい生徒だった。

「あ、あの……」

 その生徒は、おずおずと手を挙げた。

桜木さくらぎさん、どうぞ」

「プ、プラネタリウムなんてどうですか?」

 桜木が発言すると、「いいかも」「面白そう!」という声が上がった。

「いいですね。機材はどうしますか?」

 委員長も賛同している。

「う、うちに投影機があるので、それで大丈夫だと思います」

「分かりました。出し物をプラネタリウムにすることに、反対の方はいますか?」

 委員長が問いかける。返事はなかった。

「では、雪組の出し物はプラネタリウムに決定です

!」

 委員長が黒板に「雪組の出し物 プラネタリウム」と書くと、拍手が上がった。これで出し物はプラネタリウムに決定だ。

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