二十八 妖狩り

 食事会が終わって腹がこなれた後は、交流会のメインイベント──妖狩りが始まる。

 妖狩りは八人の祓魔師が二チームに分かれ、チームごとに敷地に放たれた妖を探し、祓う。二つのチームのうち、一番最初に妖を祓ったチームの勝ちだ。妖の探知に祓魔具などを使うのは禁止されており、メンバーの力のみで探す必要がある。チームはくじ引きで決める。このくじは公正を期すため、狩りに参加しない者──男性陣が作り、鍵のかかる場所に厳重に保管する。そのため、参加者はくじを引くまでどのチームになるか分からない。

 くじ引きの結果、彩芽は、日菜子・紫・蘭と同じチームになった。

「よろしくね、蘭ちゃん」

「⋯⋯ええ、よろしく」

 蘭は浮かない顔をしている。

 紫は、日菜子とにこやかに話している。先ほど彩芽たちに見せた表情が嘘のようだ。

 そうこうしているうちに、スタート位置につく時間になった。

 スタートは公正を期すため、両チームが互いに真反対の地点からとなる。両チームが移動し終えたら、スタートだ。

「彩芽」

 スタートの直前、蘭が話しかける。

「何?」

「⋯⋯頑張りましょう」

 蘭の声は、気負いのようなものを含んでいるように感じられた。

 スタートの狼煙のろしが上がった。妖狩りの始まりだ。


「いないなぁ⋯⋯どこにいるんだろ?」

 彩芽は草をかき分けながらつぶやく。

 彩芽たちのチームは、二人ずつ二手に分かれていた。

「彩芽、どう?」

 蘭が話しかける。不発だったようだ。

「ここにはいないみたい」

「そう⋯⋯ん?」

 蘭の目が何かを捉えた。

「どうしたの?」

「しっ、あそこ」

 蘭がささやき、一点を指す。

 指を目で追うと、何かが木陰に逃げ込んだ。それは、ネズミ程度のサイズだった。

「あれだね!」

「ええ。追うわよ」

 二人が木陰に近寄ろうとすると、妖はどこかへ走っていった。

「あっ!」

「大丈夫、まだ気づかれていないわ。挟み撃ちにするから、彩芽は左に行って」

「うん!」

 二人は二手に別れ、妖を追う。

 しばらく追っていると、広い場所に出た。奥の方では、日菜子と紫が待ち構えていた。

「予想通りね。日菜子、いくわよ」

「うん、紫ちゃん」

 二人が祓魔具を構えた。

 その時だった。蘭が小石につまずき、転んだのだ。

「きゃっ!?」

 その声で、妖が追っ手に気づいた。

 妖は、彩芽たちとも日菜子たちとも違う方向──あさっての方向へと逃げ出した。

「蘭ちゃ──」

 彩芽は言葉を紡ごうとしたが、その声は途切れた。

 蘭は腰が抜けたようにへたり込んでいた。その顔は真っ青だ。

「蘭ちゃん⋯⋯⋯⋯?」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 彼女は青い顔のまま、しきりに謝っている。明らかに異様だった。

 その時、紫が近づいてきた。その顔に表情はなかった。

「お母さ……」

「これ以上、わたくしを失望させないでくれるかしら」

 紫は蘭を遮り、吐き捨てる。

「えっ……」

 彩芽は絶句した。

「あなたがヘマをしなければ、彩芽ちゃんの努力は無駄にならなかったのよ?」

「それは……」

「失敗したわ。あなたなんて、産まなければよかった。死んだのがすみれじゃなくて、あなただったらよかったのに」

「……その言い方は、ないんじゃないですか」

 彩芽が声を発する。もう、我慢の限界だった。

「あら」

 口を挟まれると思っていなかったのか、紫は目を丸くしている。

「蘭ちゃん、ここまで頑張ってましたよね? それを、ちょっと失敗しただけで存在まで否定するとか、ひどすぎるんじゃないですか?」

 本家当主の妻が相手だろうと、もう関係なかった。彩芽は、とても腹が立っていた。

「行こう、蘭ちゃん」

 彩芽は蘭の手を引いて立たせると、その場を立ち去った。

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