二十七 交流会

 夕方。いよいよ交流会の時間となった。

「集まってくれたこと、心より感謝する。今日は久方ぶりに、全員が集った会だ。皆、心ゆくまで楽しんでくれ」

 椿の挨拶で交流会が始まった。

 広間には、他の分家の人々も集まっている。九条家の後、続々と到着したのだ。分家の中には老夫婦だけの家もあれば、幼い子供が複数いる家もあった。

 彩芽は机の上の料理に目を奪われていた。大きな机に様々な料理が並べられており、どれもとても美味しそうに見えた。

 料理は和食だけでなく洋食もあり、特に一口サイズのハンバーグはソースがツヤツヤと輝いて、宝石のようだった。どの料理も頬が落ちるほど美味しく、あれもこれもと欲張ってしまう。彩芽の皿は、料理でいっぱいになっていた。

「彩芽。お母さんたち、料理取りに行ってくるわね」

「うん、行ってらっしゃい」

 両親が離れていった時だった。

「来てくれてありがとう、彩芽ちゃん」

「あっ、蘭ちゃんのお母さん」

 紫が近づいてきた。

「いつも蘭のお世話をしてくれて、ありがとう。あの子、迷惑かけていないかしら?」

「いえ、私の方がお世話されてます。蘭ちゃん、すごく強くて頼りにしてます」

「⋯⋯彩芽ちゃんは、あの子が強いと思うの?」

 紫が憎々しげにつぶやく。

「えっ?」

 彩芽は思わず聞き返す。紫が何を言っているのか、分からなかった。

「いえ、何でもないわ。交流会、楽しんでね」

 彼女は答えず、穏やかな笑顔を浮かべて去っていった。

(今のは、何だったんだろう⋯⋯)

 彩芽には、紫が発した言葉の意味を理解できなかった。

 その時、蘭が青い顔をして駆け寄ってきた。

「⋯⋯彩芽!」

「蘭ちゃん。そんなに慌ててどうしたの?」

「大丈夫!?」

「えっ? 何が?」

「お母様よ。まさか彩芽にまで言うなんて、あの人は⋯⋯」

 その声には、憎悪がこもっていた。

「大丈夫だよ」

 内心では、先ほどの紫の態度が引っかかっていた。しかし、とても口に出せそうになかった。

 彩芽は小さい頃、紫と会ったことがある。その時は、先ほどと同じく「おしとやかで、優しそうな人」だと思っていた。そんな母がいる蘭が羨ましく、別れる時に泣いたことさえあった。

 しかし、先ほどの紫の態度や蘭の言動からかんがみるに、幼い彩芽が紫に下した評価は間違っていた可能性が高い。彩芽がこれまで見ていた紫の性格は、氷山の一角にすぎなかったのではないか。

 彩芽の中で、紫に対する信用が音を立てて崩れていく気がした。

 それを考え始めると、料理の味など、もう分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る