二十三 消化不良
加賀美校長に話を聞いた日のことだった。家に帰った彩芽は、部屋のベッドで一人考えていた。
今日の校長の態度は、明らかに変だった。まるで、触れられたくないことに触れられたようだった。校長と濁悪の間に、何か良からぬものがあることは、彩芽にも分かった。
「⋯⋯何なんだろ、濁悪って」
つぶやくと、枕もとに置いたスマートフォンが震えた。
「何だろ?」
スマートフォンを手に取ると、メッセージアプリの通知が表示されていた。
「蘭ちゃん?」
送信元は蘭だった。通知をタップし、アプリを開く。
「調査のことだけれど、私は今から家の書庫を調べるわ。彩芽は、濁悪のことを家族に尋ねてみてくれるかしら」
蘭は家でも調査をしているらしい。
彩芽は「分かった。聞いてみるね」と返した。
すぐに返事が届き、そこには「お願いね」とあった。
彩芽がスマートフォンをスリープ状態にすると、階下から「彩芽ー、ご飯よー」と声がした。
「今行くー」と返し、彩芽はスマートフォンを置いて部屋を出た。
一階に降りると、既に夕飯の準備が整っていた。今日のメニューは唐揚げらしい。大皿がテーブルの真ん中に鎮座していた。三杯の味噌汁が湯気を立てている。彩芽はしゃもじを手に取り、炊飯器を開けた。
彩芽が席につくと、三人は夕飯を食べ始めた。
彩芽はさっそく、唐揚げを取る。
口に運ぶとジューシーな肉汁が溢れ、少し辛めの味付けが舌を楽しませた。
「ちょっとお母さんに聞きたいことがあるんだけどさ〜」
彩芽は飯を頬張りながら尋ねる。
「なぁに?」
母は唐揚げを大皿から取りながら答える。
「濁悪って知ってる?」
瞬間、母が唐揚げを箸ごと落とした。落ちた箸が食器に当たる、高い音が場違いだった。
「彩芽、どこでその名前を⋯⋯」
母の声は震えていた。その顔は血の気が失せ、真っ白だった。手もわなわなと震えている。
「ごめん⋯⋯そんなヤバいの?」
「そうよ。彩芽、絶対関わっちゃダメだからね」
母の鬼気迫る顔に、彩芽は何も言えなかった。
彩芽は早々に夕飯を切り上げ、部屋へ戻った。
部屋に戻った彩芽は、スマートフォンを手に取る。
メッセージアプリを起動し、蘭に通話をかける。
数回のコール音の後、電話は繋がった。
「もしもし、蘭ちゃん?」
「彩芽。どうしたの」
「さっき、お母さんに濁悪のこと聞いてみた」
「どうだったの?」
「そしたら、『ヤバいから絶対関わっちゃダメ』って言ってた」
返信には「彩芽もそうだったのね。家の書庫を調べたら、同じようなことが書いてある文献が見つかったわ」とあった。
彩芽は「そっか⋯⋯」とだけ返事をし、アプリを閉じた。
彩芽の悪い予感が、いよいよ真実味を帯びてきた。
もやもやとした思いを抱えたまま、本格的な夏休みの幕開けを迎えた。宿題よりも、濁悪のことが気になって仕方がなかった。
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