夏季講習会編

二十一 調査(一)

 七月二十四日。世間は夏休み真っただ中だ。

 窓から射す日差しは既に夏のものとなっており、席が窓際の生徒は日差しの熱に負けそうだ。

 彩芽たちはというと、いつも通り学校に来ていた。

 それは、胡蝶館女学校が勉強に力を入れている学校だからだ。そのため、毎年夏休みにはこうして講習会がある。

 彩芽は知らなかったため、終業式の日には浮かれていた。まさか夏休みも学校に行かなくてはならないとは、全く思っていなかった。

 今日最後の講習は、自習となっている。近くの席同士で課題に取り組む者、課題そっちのけでおしゃべりに興じる者と様々だった。

「何で、夏休みなのに学校来なきゃいけないの〜⋯⋯」

 彩芽は文句を言った。

「祓魔師の力を磨くためよ。我慢して」

 蘭はこちらを振り返らずに返す。

「そうだけどさぁ⋯⋯分かんないとこがあるんだよー」

 彩芽はさらに文句を垂れる。

「見せてちょうだい。⋯⋯あぁ、これは教科書の欄外に小さく書いてあるわよ」

 蘭が上半身をひねって振り返り、プリントをのぞき込む。

「えっ、ありがとう! 何ページ?」

「三十四ページよ」

「ありがと! ⋯⋯あっ、ほんとだ。こんなとこに!」

 三十四ページをよく見ると、求めていた答えはとても気づきにくいところにあった。

「どういたしまして」

 蘭は自らのプリントに向き直った。

「⋯⋯蘭ちゃん」

 彩芽は蘭の背中をシャープペンシルの上部でつつく。

「何かしら」

 再び、蘭が振り返る。

「ねぇ、千風ちゃんが言ってた『濁悪じょくあく』って何なんだろう?」

 彩芽は尋ねる。期末試験の最終日に、千風が言っていた「濁悪」とは何か、さっぱり分からない。あれから考えてみたが、彩芽の知らない言葉だった。

「さあ⋯⋯分からないけれど、祓魔師わたくしたちにとってよくない存在であることは確かだわ」

「うん、そうだよね⋯⋯」

「どうしたの」

 蘭がこちらに向き直る。

「何か、上手く言えないんだけど⋯⋯このままだと、すごく悪いことが起きる気がする⋯⋯」

「彩芽もそう思うのね」

「うん⋯⋯」

「一度、わたくしたちで調べてみましょう」

「そうだね。何か分かるかもしれないし」

 彩芽はうなずき、課題に向き直った。


 チャイムが鳴り、今日の講習は全て終了した。生徒は皆、おしゃべりに花を咲かせながら下校していく。

 彩芽と蘭はといえば、その流れに逆らっている。向かう先は図書館だ。

 図書館は自習する生徒のため、講習会が終わった後も開館している。閉館時間はいつも、学校の最終下校時間と同じである。この時期は日が長いため、夜七時が最終下校時間となっている。今は昼の二時で、閉館までは五時間ある。調べ物をするのには、十分な時間だろう。

「どこの棚から見る?」

 彩芽は辺りを見回す。

「まず、学校の歴史に関わる本から調べましょう。棚は⋯⋯あそこね」

 蘭は図書館の奥まったところを指さす。そこには、「胡蝶館女学校 関連本コーナー」と書かれた手作りのポップがついた棚があった。

「手分けして調べましょう。彩芽は棚の上半分を調べてちょうだい。わたくしは下半分を調べるわ」

「分かった!」

 二人は棚から本を取り出し、次々と目を通す。

 最終下校時間まで粘ったが、全ての本を調べることはできなかった。

 その日は諦め、二人は下校した。

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