一学期末試験編

十四 思わぬ知らせ

 彩芽にとっては嵐のようだった新入生合宿から二週間がたった。合宿が終わり、一年生はすっかり日常に戻っている。

 あっという間に季節は移り変わり、最近は毎日のように蒸し暑い日が続いている。彩芽のクラスも全員が夏服を着ていて、長袖を着ている生徒は一人もいない。窓から差す日差しが、制服の白を眩しく照らしていた。もう、夏はすぐそこまで迫ってきている。

「おはようございます」

 担任の藤宮が教室に入ってきた。友人と話していた生徒たちが慌てて自分の席に戻ると、朝のホームルームが始まる。

「プリントを配ります。一枚取って、後ろに回してください」

 担任が最前列の生徒にプリントの束を渡していく。プリントを回す、バサバサという音が響いた。

 蘭が彩芽にプリントを渡し、彩芽も後ろにプリントを回す。自分の務めを果たした彩芽は、プリントに目を落とした。

 彩芽は二の句が継げなかった。A3サイズのプリントにでかでかと印刷されていたのは、期末試験の範囲表だった。

「もうすぐ、一学期の期末テストです。皆さん、しっかり勉強していい点数を取ってくださいね」

 そう告げる担任を尻目に、彩芽は冷や汗をかいていた。あろうことか、期末試験のことをすっかり忘れていたのである。


 昼休みの食堂は、昼食を取る生徒でごった返していた。

 彩芽も会計に並んでおり、次が自分の番だった。今日は蘭と紅緒と一緒に食べることになっており、二人は既に席に座っている。

 その時、前で会計をしている生徒──天田あまた千風ちかぜが小銭を落とした。彼女は咄嗟に小銭を拾うが、最後の一枚を取り逃した。小銭を拾おうと手を伸ばした時、彼女の肩にかかった三つ編みが揺れた。

 彩芽の足元に転がってきたため、彩芽はそれを拾って手渡した。

「落としたよ」

「すまない、ありがとう」

 千風は礼を言うと、トレイを持って去っていった。

 彩芽も会計を済ませ、二人のもとに向かう。

「お待たせー」

「おかえり〜」

 トレイを置き、予め二人が確保してくれていた席に座る。

「さっき、千風ちゃんに会ったよ」

「そう。彼女も今日はここで食べるのね」

 蘭が返事をした。

「千風って、天田千風ちゃんのことぉ?」

「うん、同じクラスなんだ。紅緒ちゃん、知ってるの?」

「知ってるよぉ。初等科の頃から成績よくって、こないだの中間テストは学年一位だったんだってぇ。あたし勉強苦手だから、すごいなぁって思うんだぁ」

「千風ちゃん、そんな頭いいんだ。いいな〜⋯⋯」

 彩芽は期末試験のことを思い出し、ため息をついた。千風と違って、彩芽の成績は小学校時代から平凡そのものである。そのため、彩芽は彼女の何倍も努力せねばならない。

 その時、近くの席の会話が聞こえた。それは噂話で、今回の期末試験でカンニングが行われるというものだった。

 彩芽はそんな話を聞いたこと自体、テストを受けるまで忘れていた。

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