十一 新入生合宿(三)
その夜、彩芽の部屋では消灯時間を過ぎてもおしゃべりの声がしていた。
しかし、疲れているのは皆同じ。それも長くは続かず、彩芽以外は全員寝てしまった。
「⋯⋯起きてるー?」
小声で呼びかけるが、誰からも返事はない。全員寝入っているようだ。
彩芽も寝ようとして目をつぶるが、何となく寝付けない。しばらくじっとしてみたが、それでも眠りにつくことはできそうになかった。
クラスメイトを起こさないよう気をつけながら、彩芽は身を起こす。眠れないので、施設の中を散歩することに決めたのだ。
音を立てないように気をつけながら、ドアを開ける。かちゃりと小さな音がして、彩芽は思わずルームメイトが寝ている方向を振り返った。
先ほどと変わらず、全員寝入っている。気づかれなかったようだ。彩芽は再び気をつけてドアを閉めた。
部屋を出ると、当然ながら廊下は真っ暗だった。どこまでも続いているかのような廊下の奥に、非常灯の明かりだけがぼんやりと灯っていた。
彩芽は他の生徒や教師を起こさぬよう、慎重に歩く。
今この建物で、起きて出歩いているのは自分だけ。彩芽は、まるで自分が世界を独り占めしているような気がした。
夜の施設内は、初夏といえども少し冷えていた。寒くはなく、薄手の長袖を纏った肌に心地よい冷たさだった。
しばらくぶらついた彩芽は、部屋に戻ることにした。
来た道を引き返して、ふと気づく。施設の共用スペースに誰かがいる。
まさかこの施設は幽霊が出るのか。恐る恐る近づくと、真っ黒なそれは振り向いた。
長い前髪が顔にかかっている。彩芽は本当に幽霊がいると思い、叫び出しそうになった。
しかし、共用スペースの暗がりに目が慣れて相手の顔が見えた。よく見ると、それは紅緒だった。
「何だ、紅緒ちゃんかぁ⋯⋯びっくりさせないでよ⋯⋯」
「ごめんね〜。彩芽ちゃん、ちょっといい〜? 一緒に来てほしいんだけど〜」
「えっ、こんな時間に?」
突然の誘いに、彩芽は驚く。彩芽は昼間、鬼の形相でこちらを睨みつける紅緒を見てしまった。何が原因なのか分からないため、紅緒と二人きりになるのは極力避けたい。
「うん。寝れなくて散歩してたら、いいもの見つけたから見せたくて〜」
「それはいいけど、私たちがいないって分かったら大騒ぎになっちゃうよ?」
彩芽は行かなくて済みそうな理由を必死に考える。
「朝までに戻れば大丈夫だよ〜。ね、行こ〜?」
しかし、紅緒は食い下がる。無駄な悪あがきだったようだ。
「⋯⋯分かった。行こう」
苦渋の決断だった。対照的に、紅緒は満面の笑みを浮かべていた。
「ありがと〜! こっちだよ〜!」
この後、何かが起こる気がする。彩芽は胸騒ぎがしてならなかった。
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