七 お買い物(二)

 服屋は、二人と同年代くらいの少女たちでごった返していた。ゴールデンウィークに入って間もない時期だからか、いつも彩芽が来る時より客が多い。レジや試着室の前には、長蛇の列ができている。

「わたくしの服装は、あなたに任せるわ」

「うん、任せて! 蘭ちゃんって、どういう服が好み?」

「あまり、好みというものが分からなくて⋯⋯」

「そっか、じゃあちょっと待って」

 彩芽はスマートフォンを取り出し、服屋の公式アプリを起動する。

「この中でいいと思った組み合わせがあったら、教えて」

 彩芽は様々なコーディネートを表示したスマートフォンを手渡した。

 蘭はスマートフォンを受け取り、操作する。しばらく画面をスクロールしていたが、突然手が止まった。

「⋯⋯これと、これと、これ」

 蘭がスマートフォンを差し出す。三着ともカジュアルとガーリーが融合したようなコーディネートだった。

「これだね。とりあえず、ここに在庫あるか見てみるね」

「⋯⋯ありがとう」

 聞き逃してしまいそうなほど、か細い声だった。

「えっ、う、ううん! 全然! 気にしないで」

 慌てて返事をし、服の在庫検索をする。

「全部在庫あるみたい。探そっか」

 近くから買い物かごを二つ取り、一つを蘭に手渡す。

 蘭がかごを受け取り、二人は服を探し始めた。

「このTシャツは、このへんのはず⋯⋯あ、あったよ」

 彩芽が言うと、しばらく蘭は上の棚を探していたがすぐに下の棚に目を走らせた。

「これね」

 蘭は白いTシャツを手に取った。Sサイズだった。

「うん。次探そっか」

 次はズボンだ。蘭が選んだのは、キュロットだった。

「あ、これだ」

 彩芽が声をかけてすぐに見つけたらしく、蘭はキュロットを手に取った。

「可愛いけれど、これはスカートではないのかしら?」

「これね、スカートっぽいけど実はズボンなんだよ」

 彩芽はキュロットの左右の裾をつまみ、外側に軽く引っ張った。股のところで、裾が二つに分かれた。

「本当だわ。こんな服があるのね」

 蘭はキュロットを初めて見たらしく、いたく感動していた。コーディネートに使われていたものをかごに放り込み、二着目・三着目の服を探す。

 蘭の服は順調に見つかり、彩芽は並行して自分の服も探していた。

 二人の服が全て見つかる頃には、買い物かごに小さな山ができていた。

「これで全部かしら?」

 彩芽はスマートフォンと買い物かごの中身を見比べる。視線を何往復かさせて「うん、揃ってるよ」と答えた。

「じゃあ、レジ並ぼっか」

「ええ」

 レジに向かったが、列は短くなるどころか、少し長くなっているように見えた。

「⋯⋯かなり時間がかかりそうね」

「そうだね⋯⋯ゴールデンウィークだし、今日土曜日だし。しょうがないよ」

 うんざりするような行列に、二人は並んだ。

「ふー、重かったー」

 彩芽が足元に買い物かごを下ろすと、蘭もそれに倣った。

 蘭はスマートフォンを取り出し、いじり始めた。

 それをきっかけに、彩芽もスマートフォンを取り出す。

(どうしよう。私、何かしちゃったかな⋯⋯? 蘭ちゃん、さっきから何も喋らないし⋯⋯)

 彩芽が不安になって蘭を一瞥いちべつすると、蘭がこちらを見ていた。彼女は、何か思いつめたような顔をしていた。

 彩芽が声を出す直前、蘭が口を開いた。

「⋯⋯ねぇ」

 好きな人に告白する直前のように、ためらいの滲んだ声音だった。

「な、何!?」

 蘭は無言でスマートフォンを差し出す。

 目を落とすと、そこにはロック画面が表示されていた。

「⋯⋯⋯⋯もうお昼だから、終わったらご飯を食べに行こうと思うのだけれど、どうかしら」

「えっ」

 視線を動かすと、画面上部に十二時二十一分と表示されていた。

「そんなことかぁ⋯⋯」

 膝から力が抜けていくような気がした。

「やっぱり、ダメかしら」

 蘭は不安そうな目をしている。

「違う違う! 全然オッケー! うん、行こう!」

 慌てて弁解する。

 どうやら、彩芽の取り越し苦労だったようだ。

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