第9話(2)勇者チーム分析
「はい、皆、注目! フォーちゃんの分析が始まるよ~!」
「ななみ、アンタちょっと黙ってなさい!」
「はい!」
「返事はいいわね……それじゃあ、明日対戦する『リュミエール越谷』の分析を始めるわ。モニターを見てちょうだい」
モニターに茶髪のショートボブの女性が映る。レイブンが目を細める。
「この娘は見たことがあるな……」
「そうよ、前回こっちに乗り込んできた内の一人よ。名前はレイナ。勇者パーティーの賢者を務めているわ」
「賢者……なかなかの魔法を使っていたわよね?」
ななみが尋ねる。フォーが答える。
「そうね。人間にしては……」
「人間にしては?」
「そうよ、本気を出したアタシには到底及ばないわ」
「でも、フォーちゃん、この世界じゃあ、魔力が安定しないんだよね」
「……そうよ」
「見た感じ、このレイナちゃんの方が安定してそうだけど……」
「くっ……それはあれよ」
「あれ?」
ななみが首を傾げる。
「こっちの世界出身だから、空気とかフィーリングが合うんでしょ」
「ホームとアウェイみたいなもの?」
「そうそう、そういうものよ」
フォーが頷く。
「レイナって名前とこの見た目で越谷がホームってわけでもないんじゃ……」
「う、うるさいわね!」
ななみに対し、フォーが声を上げる。レイブンが口を開く。
「……分析を頼む」
「ああ、失礼……」
「一人だけ違うユニフォームということは、この娘はキーパーか」
「そうよ、こないだも見たように、魔法を使ってどんな強烈なシュートもストップしてしまうわ。こんな華奢な見た目だけど、まさに難攻不落の砦ね」
「ど、どうするにゃあ……?」
トッケが不安そうな声を上げる。
「完璧な魔法というものはまず存在しないわ。必ずどこかしらに穴がある」
「そ、それはどこにゃあ?」
「こればかりはこの目で直に見てみないとなんともね……明日見破ってみせるわ」
「わ、分かったにゃ……」
フォーの言葉にトッケが頷く。
「次はこの選手……」
モニターに大柄で赤髪ショートカットの女性が映る。ルトが少し驚く。
「お、大きいっすね……」
「彼女の名前はヒルダ。勇者パーティーではタンクを務めていたわ」
「タンク……壁ってこと?」
ななみの問いにフォーが頷く。
「そう、このチームでも守備陣の柱を担っているわ。人間離れした当たりの強さに注意が必要よ。タックルを喰らったら、アンタたちでも無事じゃすまないわ」
「おおう……」
ルトが震え上がる。モニターに次の選手が映る。小柄で青髪ミディアムヘアの女性である。フォーが説明する。
「彼女はピティ……ポジションはサイドに位置する傾向が多いわね」
「はっ、こいつは小柄だな、大したことなさそうだ」
ゴブが笑う。フォーがジト目でゴブを見つめる。
「アンタよりは大きいけど……まあ、問題はそこじゃないわ」
「え?」
「彼女は勇者パーティーで主にヒーラーを務めていたの。回復役ね」
「主に……?」
首を捻るななみにフォーが説明する。
「バッファー兼デバッファーでもあるのよ」
「それって……」
「そう、味方を有利な状態にする――バフ効果ってやつ――相手を不利な状態にする――デバフ効果ってやつ――そういう魔法を使えるのよ。ある意味一番厄介かもね」
「ど、どんなデバフ効果を?」
「その日の調子によって違うみたいだから、これも明日になってみないと分からないわね」
ゴブの問いにフォーが首をすくめる。モニターに次の選手が映る。黒いおさげ髪の女性である。レイブンが顎をさすりながら呟く。
「この娘も見覚えがあるな……」
「そう。こっちに来たわね、格闘家のリン。身のこなしが軽いし、長い脚を活かしたボールキープとボール奪取が得意だわ。この娘を自由にさせると危険ね」
「むう~」
「スラ、アンタとマッチアップする機会が多いと思うわ。負けないで」
「が、頑張るラ~」
スラが頷く。モニターに次の選手が映る。金髪でロングヘアーの凛々しい顔立ちの女性である。フォーが説明する。
「彼女はビアンカ。女騎士よ」
「お、女騎士……ゴクリ」
「……声に出ているわよ、クーオ」
「お、おっと、これははしたなかったべ……」
クーオがよだれをふき取る。
「強気な性格で攻撃の要の一人よ。調子づかせるとマズいわね。さて、次は……」
モニターに次の選手が映る。小柄な赤毛の女の子が映る。レイブンが苦々しい顔になる。
「この娘……」
「ええ、前回も来たわね。名前はラド。人竜族の末裔よ」
「巨大なドラゴンに変化したわよね……」
ななみの呟きにフォーが応じる。
「ええ、だけど、これまでの試合を見る限り、変化の頻度は少ないわね」
「何故?」
「さあ?」
ななみの問いに対し、フォーが両手を広げる。ななみが困惑する。
「さあ?って……」
「冗談よ。推測だけど、変化は体に負担がかかるんじゃないの?」
「負担……」
「ええ、極力無理はさせたくないんじゃないかしら。ただ……」
「ただ?」
「明日は決勝だし……出し惜しみするというのは考えにくいわ」
「あのシュートは強烈かつ凄いスピードだった……」
レムが淡々と振り返る。
「シュートを撃たせないのが一番なわけだけど、残念ながらそういうわけにもいかないでしょうね。レム、集中しておきなさい」
「了解……」
「さて、最後は……」
モニターに金髪で赤色の額当てをした選手が映る。レイブンがモニターを睨み付ける。
「こやつ……」
「ご存知の通り、勇者ローよ。サッカープレーヤーとしても技術が高いわ。この男を止めなければ、こちらの勝利は遠くなるでしょうね……」
「ふん、この間は不覚を取ったが、明日はそうはいかん! ワシが完膚なきまでに叩きのめしてくれるわ!」
レイブンが高らかに宣言する。
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