第9話(1)決勝前夜

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「……というわけで、いよいよ明日は決勝よ」


 クラブハウスのミーティングルームで、ななみが皆に告げる。メンバーの皆は椅子に座ってななみをじっと見つめる。


「……」


「この国にはこういう言葉があるわ……」


「?」


「『絶対に負けられない戦いがそこにはある!』」


「!」


「そうなんです!」


「‼」


「負けられないんです!」


「⁉」


「クゥ~~~!」


「……」


 ななみが握りこぶしをつくって唸る。皆が困惑する。フォーが口を開く。


「ななみ、一人で盛り上がってるとこ悪いんだけど……」


「え?」


「よく分からないパフォーマンスはいいから……」


「パフォーマンスじゃないわよ! 昔の偉い人はこんな感じで言ったのよ!」


「本当に?」


「本当よ!」


「ふ~ん……」


「ちょっとだけ似ているって評判なんだから」


「似ているって、物真似じゃない、やっぱりパフォーマンスじゃないの! しかもちょっとだけ似ているって!」


「ニュアンスは捉えているよね~って、皆褒めてくれたわよ」


「気を使ってくれてるだけよ、それは!」


「ええっ⁉」


「ええっ⁉じゃないわよ!」


「おかしいな……このクラブの入社面接ではウケたんだけど……」


 ななみが腕を組んで首を傾げる。


「面接で一体何をやっているのよ……」


 フォーが呆れ気味な視線を向ける。


「う~ん……」


「それはいいから、本題に入りなさいよ」


「ああ、分かったわ。良い、皆?」


「……」


 皆が黙ってななみを見つめる。


「明日は負けられない戦いよ!」


「っ!」


「何故ならば!」


「っ‼」


「優勝がかかっているから!」


「っ⁉」


「負けたらどうなると思う?」


「……?」


「なんと…」


「………?」


「準優勝よ!」


「えっ!」


「準優勝だと大変よ?」


「えっ‼」


「賞金が半分!」


「えっ⁉」


「だから絶対に勝つのよ!」


 ななみが演台をドンと叩く。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 フォーが声を上げる。ななみが首を捻る。


「なによ?」


「なによ?はこっちのセリフよ! 全然大事なこと言ってないじゃないの!」


「大事でしょう、負けたらもらえる賞金半分よ?」


「クラブ経営的にはね!」


「プロ選手としての心構えにもつながってくるわよ」


「え?」


「お金にこだわるのは悪いことじゃないわ」


「それはそうかもしれないけど!」


「なにが不満なのよ?」


「明日決勝なんでしょう⁉」


「ええ、そうよ」


「じゃあもっと具体的な話をしてちょうだいよ!」


「ああ~そういうのね?」


「他になにがあるのよ!」


「あ~分かったわ」


「本当に?」


「うん、マジで」


「マジって……」


「大丈夫、皆まで言うな」


 ななみが手のひらを広げてフォーに突き出す。


「頼むわよ……」


 フォーが黙り、ななみが改めて口を開く。


「……良いかしら?」


「…………」


 皆があらためてななみに注目する。


「そもそもサッカーというスポーツは19世紀半ばに英国でスポーツとして確立され……」


「そういう具体論は良いから!」


「サッカーという字は人と人が支え合って……」


「嘘ついているし!」


「えっと……」


「早くもネタ切れ⁉」


「ちょっと待って……」


「待ってって!」


 ななみがバッと右手を挙げる。


「私、七瀬ななみ! B型で蟹座!」


「アンタのパーソナルな情報は良いのよ!」


「スリーサイズは秘密!」


「だから聞いてないわよ!」


「現在、恋人募集中です!」


「やけくそじゃない!」


「あ、ごめん、今はサッカーが恋人だった~」


「やかましいわ!」


「え、えっと……」


「もういい! 結局アレでしょ? 相手のスカウティングが出来てないってことでしょ⁉」


「いや、情報はまとめてきたわ」


「あるの⁉」


「皆、モニターに注目して……フォーちゃん、後はよろしく。場は暖めておいたから……」


「そういうのいらないわよ! なんだったのよ! ……はあ、まあいいわ」


 フォーがモニター前に立つ。

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