第8話(4)対FCアキバ戦
「……さて、この試合に勝てば、いよいよ決勝よ」
「それは良いんだけど……」
「ん? どうかした、フォーちゃん?」
「相も変わらずスカウティングが機能していないわね……」
「ええ、だってしょうがないじゃない、私も色々忙しいのよ。大体、フォーちゃんが担当することじゃないの?」
ななみが唇を尖らす。
「アタシだって忙しいわよ。練習を見なきゃいけないし」
「でもフォーちゃんなら箒に乗って空から偵察出来るじゃない」
「そこまで魔力が回復していないわ。それにそんなことをしたら、目立ってしょうがないじゃないの」
「じゃあ透明になるとか?」
「あのね……」
「あっ、千里眼とか!」
「はあ……」
フォーがため息をつく。ななみが首を捻る。
「なによ?」
「アンタ、超能力者かなにかと勘違いしていない?」
「違うの?」
「魔法だって万能じゃないのよ。もっとも元の世界みたいに魔力が戻れば多少なりとも話は変わってくるけど」
「それでも、今は難しいと」
「そうね」
フォーが頷く。ななみが両手で後頭部を抱えながら呟く。
「なんだ、つまんないの~」
「つ、つまんないって、アンタねえ……まあいいわ、とにかく」
「え?」
「とにかくスカウティング部門の早急な充実を要望するわ」
「う~ん、この大会に勝ったらね」
「大会が終わってからじゃ遅いのよ!」
「とは言ってもね~」
ななみが苦笑する。
「せめて決勝くらいはどうにかしなさいよ」
「まあ、それよりもまず、今日の試合でしょう……」
「そうね、結局話はそこに戻るのだけど……どういうこと?」
「ん?」
ななみが首を傾げる。
「ん? じゃないわよ! なによ、あのマッチョの集団は!?」
フォーが相手チームをビシッと指差す。そこにはボディビルダーと見紛うような見事な肉体をした選手たちがズラリと並んでいる。
「『FCアキバ』というチーム名からはちょっと想像がつかなかったわね……」
「気が付かなかったの!? あんなムキムキの連中に!」
「……ここまでの試合ではずっと控えのメンバーだったから……」
「それにしてもよ!」
「ほら、ベンチではコートとか羽織っているじゃない。着痩せするタイプみたいね~」
「なにを呑気な!」
「まあまあ、そんなにムキムキしないで……」
「まったく……」
フォーが頭を軽く抑える。
「試合が始まるわ」
「!」
「レイブンが押し倒された!?」
「……今日は魔力の調子が良くないとはいえ、あの魔王を押し倒すとは……大したフィジカルね。少なくともあの筋肉、見かけ倒しじゃないってことね」
フォーが感心する。試合はフィジカルの平均値で勝るFCアキバが競り合いを中心とした肉弾戦に持ち込み、アウゲンブリック船橋を徐々に圧倒していく。
「あ!」
アキバの選手のシュートがゴールネットを揺らす。
「よく耐えていたけど、ついに均衡が崩れちゃったわね……」
「どうするの⁉」
「とりあえず前半はこのまま耐えるわ」
ななみの問いにフォーは冷静に答える。
「ピィー!」
「あ、前半終了……」
「一点差なら上出来だわ」
フォーが満足そうに頷く。ななみが尋ねる。
「大丈夫なの?」
「さあ?」
フォーが両手を広げる。ななみが慌てる。
「ちょっ、ちょっと⁉」
「勝負事なんてどう転がるか分からないんだからもう少し余裕を持って構えていなさいよ」
「……神頼みってこと?」
「魔女が神に祈るわけないでしょう……」
フォーが苦笑する。
「……」
「なによ?」
「前回良い監督かも?って言ったから調子に乗ってない?」
「……アンタはずっと調子に乗っているわよね、場所が場所なら、皆がアタシに恐れおののくのよ? それをアンタは……」
「……おい」
レイブンが声をかける。フォーがハッとする。
「ああ、ごめんなさい。後半の策を伝えるわ……」
ハーフタイムが終わり、後半が始まる。そして……。
「試合終了!」
「よっしゃ! ハットトリックっす!」
「同じくだにゃ~」
「か、勝った……6対1の逆転勝利……」
ななみが喜ぶルトとトッケを呆然と見つめる。フォーが胸を張る。
「まあ、ざっとこんなもんよ」
「前の試合みたいにクーオちゃんたちを前線に上げるかと……」
「それは対策されている恐れがあったからね。それになにも馬鹿正直に同じ土俵に上がることはないわ」
「レイブンのポジションを下げたのが上手くいったわね……」
「あれで相手の守備に迷いが生まれたわ。それによって生じたスペースを……」
「トッケちゃんとルトちゃんのスピードで突くと……」
「そういうこと、あの速さにはなかなか着いていけないわよね~」
フォーが笑みを浮かべる。
「これで……」
「ええ……」
「決勝戦!」
「そうよ!」
「絶対に負けられないなんとやらね!」
「なんとやらって!」
「アハハ……」
「ウフフ……」
ななみとフォーが見つめ合って笑い合う。
「ワ、ワシだけここ数試合ほとんど良いところなし……!」
レイブンが己のパフォーマンスに愕然とする。
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