第8話(3)対土浦バンディッツ戦
「……さて、今回の試合だけど……」
「うん……」
「またもや予想スタメンを外したわね……」
フォーがななみに冷めた視線を向ける。ななみが後頭部をポリポリと掻く。
「い、いや、まさか、スタメン全員総取っ替えとは……」
「やってくれるわね……」
フォーが相手側のベンチを見つめる。ななみが頷く。
「ま、まったく……侮れないわね、『土浦バンディッツ』……」
「それにしても……」
「え?」
「スタメン全員メガネって何よ?」
「スポーツ用メガネを着用するのはそう珍しいことではないわよ」
「それにしたってスタメン全員は珍しいでしょ。なんだったらベンチまで全員よ?」
「そ、それもそうね……」
「ご丁寧にきっちり七三分けだし……」
「そ、そうね……」
「どういうこと? わずかに確認出来た映像ではリーゼント率が高かったのだけど……」
「あれも珍しいけどね……」
「まさか大幅なメンバーチェンジを?」
「いいえ、大会期間中は登録メンバーの変更は出来ないわ」
フォーの問いにななみが首を振る。
「ふむ……」
「つまりあれは……」
「あれは?」
「大幅なイメージチェンジね」
「だ、だいぶ変わったわね……」
「ピィー!」
試合開始の笛が鳴る。
「……」
「こ、これは……フォーちゃん……」
しばらく試合の流れを眺めていたななみが口を開く。
「ええ、なかなか落ち着いた試合運びをするわね……」
フォーが腕を組みながら答える。
「確認出来た試合映像ではもっと荒々しいプレーをしていたけど……」
「この大会数試合のスタッツ……結果を見ても、これまで警告もそれなりに受けてきていたわよね?」
「ええ、イエローカードが乱れ飛んでいたわ……累積で出場停止者が出ていないのが不思議なくらい……」
フォーの問いにななみが答える。
「!」
「レイブンへのパスがカットされた!」
「誘われていたわね……」
ななみが声を上げる横でフォーが冷静に呟く。土浦バンディッツが突如として動き出す。
「カウンター!」
「連動が出来ているわね……」
土浦バンディッツの選手が少ないパスを正確に繋いで、ゴール前に侵入する。
「ああ、危ない!」
「シュートコース切って! ……」
「ああ、入っちゃった……それにしても鋭いカウンターだったわね。前の試合ではもっとなんかこう……大雑把なプレーをしていた印象だけど……」
「……なるほどね」
「え?」
「アタシたちはまんまと欺かれてきたわけよ」
「ええ?」
「これこそが連中……『土浦バンディッツ』の真の姿よ」
「し、真の姿?」
ななみが戸惑う。
「ええ、理論的なプレーを多用するエリート集団よ」
「エ、エリート集団……確かにパス回し一つとっても精度が高いわ……」
「その上、採用している戦術は非常にシステマティック……」
「互いのポジションの間隔をしっかり取っているわね……」
「そう、あれなら守備も攻撃も組織的に行えるわ……」
「い、いや、そうじゃなくて!」
ななみが堪らず声を上げる。フォーが首を捻る。
「ん?」
「なにか対策を打たないと!」
「まあ、もう少し様子を見てみましょう……」
「そんな……あっ! ルトちゃんが突破を図る! ……奪われちゃった」
「ふむ……」
「……今度はゴブちゃんが! ……ああ、また阻止されちゃった……」
「ふむふむ……」
「いや、頷いてばかりじゃない! あ、もう一点取られた……」
「リードを広げられたわね……」
「ど、どうするの?」
ななみが問う。
「……まあ、手はあるわ」
「ほ、本当に?」
「ハーフタイムまで待ちましょう」
試合はハーフタイムになる。ななみが呟く。
「結局もう一点取られて、スコアは0対3……厳しいわね」
「……正直この段階では使いたくなかったんだけど……」
「フォーちゃん?」
「アンタたち、後半はこのフォーメーションで行くわよ!」
「‼」
フォーの呼びかけにななみやメンバーたちが驚く。
「……ピィー、試合終了!」
「ろ、6対3……逆転勝利……」
「……ざっとこんなもんよ」
フォーが胸を張る。
「うおお! ハットトリックだべ!」
「同じく……」
クーオとレムが喜ぶ。
「ま、まさか、クーオちゃんだけでなく、レムちゃんまで前線に上げるとは……」
「究極のパワープレーってやつね」
「相手も今日の試合はともかく、前の試合までは結構荒っぽいプレーをしていたから、対応しようとしていたけど……」
「まさか、オークやゴーレム相手に競り合ったことは無かったでしょうからね」
フォーが笑みを浮かべる。ななみが思い出したように呟く。
「そういえば非公開練習でちょっとやっていた形ね……」
「そうよ、非公開練習っていうのも大事でしょう?」
「しかし、スラちゃんがゴールキーパー出来るとは……」
「レイブン以外のメンバーには一応キーパー練習させておいたわ。なにがあるか分からないし……その中でも粘り強いセービングをしていたからね。采配に応えてくれたわ」
「そういえばそんなことさせていたわね……遊びかと思っていたわ」
「アタシは意味のないことはさせないわよ」
「へえ……フォーちゃん、どうしてなかなか……意外と良い監督かもね」
「意外とは余計よ!」
ななみの言葉にフォーがムッとする。
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