第8話(2)対鎌倉レッドウォリアーズ戦
「……冷静に見た感じだと、そこまで上手くはないんじゃないかしら?」
「そうね……」
試合が開始され、しばらくその様子を眺めていたななみの抱いた感想にフォーが頷く。
「これならイケるんじゃない⁉」
「まあ、見た感じならば……」
フォーが前に出て右手を掲げる。当初のゲームプラン通り、エースであるレイブンにボールを集めていけという合図だ。これを見たルトがボールをレイブンに送るが、これは鋭い出足でカットされる。ななみが声を上げる。
「あっ!」
「こぼれ球を拾って!」
フォーがすかさず指示を出す。ボールはアウゲンブリック船橋が保持していたが、レイブンの周りには鎌倉レッドウォリアーズの赤いユニフォームが取り囲んでいた。
「こ、これは……!」
「さすがにそれは警戒しているか……」
「レイブンに5人も付いているわよ⁉」
「そうね……」
「ど、どうするの?」
「落ち着いて、簡単な算数の問題よ」
「さ、算数?」
「ええ、11人いるお坊さんの内、1人はゴールキーパー、もう5人はエースのマークに付きました……残りの人数は?」
「えっと、ゴールキーパーをxとして……」
ななみが指折り数え始める。フォーが首を傾げる。
「……なにをやっているの?」
「え、因数分解だけど……」
「簡単な算数って言ったでしょう、それは数学」
「あ、そうか……」
「因数分解をそれで解けるなら凄いけど……」
「……答えは5人ね」
「そう。こちらもキーパーを除けば……」
「あ、同数ね!」
「ええ、つまり1対1の状況が生じやすい……」
「な、なるほど……」
ななみが頷く。フォーが説明を続ける。
「つまり、この試合は個々の勝負という局面で負けなければ、勝てるわ」
「だ、大丈夫かしら?」
「今言ったでしょう? この程度のレベルならば、今のウチの連中なら問題はないわ」
「ふむ……」
フォーが声を上げる。
「ルト! ガンガンサイドを突破していって!」
「おう!」
ルトがドリブル突破を試みる。
「……」
相手がディフェンスに入るが、その動きは緩慢だ。ルトはニヤリと笑う。
「その程度で止められると思っているっすか⁉」
「……はあ!」
「!」
ルトが吹っ飛ぶ。ななみが声を上げる。
「審判! ファウルでしょ⁉」
「? ……」
しかし、審判は笛を吹かない。
「そ、そんな⁉ あ、ボールがウチのゴール前に!」
「クーオ! レム!」
「分かっているべ!」
「任せろ!」
「………はあ!」
「‼」
「ぬおっ‼」
クーオとレムが揃って体勢を崩し、その隙を突いて、放たれた相手のシュートが、アウゲンブリック船橋のゴールネットを揺らす。
「ゴール!」
鎌倉レッドウォリアーズに先制を許してしまう。ななみが戸惑う。
「……? クーオちゃんたちがコケて、なんてことないシュートが決まっちゃった……」
「……そういうことね」
「知っているの、フォーちゃん⁉」
「……知らなかったけど、理解したわ。さっきのルトが吹っ飛んだのも……」
「え……⁉」
「相手は高度な法術を使って、こちらの力を封じ込めているわ!」
「な、なんですって⁉」
「流石は寺生まれの集まりといったところね……」
フォーがふむふむと頷く。ななみが問う。
「は、反則じゃないの⁉」
「術の類を使ってはならないというルールは無いわ。大体、言っちゃ悪いけど、あのレベルの審判なら術の見分けすらつかないでしょう……」
「ど、どうするの⁉」
「アタシの魔法で各々の力を増幅させたいところだけど……今日はどうも調子が悪いわ」
フォーが肩をすくめる。
「ええっ⁉」
試合は進むが、同じような形でもう一点を奪われてしまう。レイブンの動きも悪い。
「……ふむ。レイブンを文字通り封じ込めるってわけね……」
「歩くのすらしんどそうよ!」
「ありったけの法力を駆使して、レイブンの魔力を抑え込んでいるんでしょう」
「ど、どうすれば……⁉ ……ん?」
「え~い!」
「ゴ、ゴール!」
「や、やったラ~」
スラのシュートが決まる。ななみが目を丸くする。
「こ、これは……」
「それ!」
「ゴール!」
「よっしゃあ!」
シュートを決めたゴブがガッツポーズする。ななみが驚いた様子で呟く。
「こ、今度はゴブちゃんが……」
「……なるほど、そういうことか」
「え?」
「トッケ! ゴブとスラにボールを集めなさい!」
「わ、分かったにゃ~!」
フォーの指示に皆が従う。やがて……。
「試合終了! 6対2でアウゲンブリック船橋の勝利!」
「やった~ハットトリックラ~」
「オ、オイラが三点も……」
「……どういうこと?」
「……このジパングはゴブリンとスライムを軽視しがちな傾向があるわ」
「え?」
「あくまでゲームなどを遊んでみた雑感だけどね。でも実際、相手はゴブとスラを軽視し、あいつらを封じ込める術を用意してなかった……これが勝因ね」
「そ、そうなんだ……このことはゴブちゃんたちには黙っていましょう」
ななみがピッチ上で無邪気に喜び合うゴブとスラを見ながら呟く。
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