第8話(1)高度な?情報戦
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ある日の練習で。フォーがグラウンドを険しい表情で眺めていた。
「……」
「どうしたの、フォーちゃん? 背中にカエルが入っちゃった時みたいな顔をして……」
「どんな顔よ、それは……」
フォーがななみの問いに答える。
「いや、難しそうな顔しているなって……」
「じゃあそう言えば良いじゃないの」
「魔女っぽく例えてみたのよ」
「魔女っぽくで、なんでカエルが出てくるのよ……」
「いや、なんかこう、グツグツと煮込んでいるみたいなイメージが……」
ななみが両手をかき回す仕草をする。
「煮込んで何を作っているのよ……?」
「いや、逆に聞きたいわよ。あれは何?」
ななみが聞き返す。
「何って聞かれてもあなたのイメージが分からないのよ」
「薬……かな?」
「だから、かな?って言われても知らないから!」
「そ、そんなに怒らないでよ。半分冗談なんだから」
「ちょっと待って。半分は本気だったってこと?」
「ええ」
「はあ……」
「それで? なんで難しい顔してたの?」
「……気がつかないの?」
「え?」
「周りを見回してみなさいよ……」
「ん?」
ななみが周囲を見回す。
「……練習を見ている連中がいるでしょ?」
「ああ、見学したいって言うから……注目度が少しずつだけど高まってきたわよね~」
「あのね……」
フォーが自らの額を抑え込む。ななみが尋ねる。
「どうかしたの?」
フォーが顔をガバッと上げる。
「敵チームのスパイかもしれないでしょうが!」
「ええっ⁉」
ななみが驚く。
「こんな平日の昼間から見学したいなんて絶対ファンとかじゃないわよ!」
「そ、それは偏見が過ぎると思うけど……」
「ったく……なんで練習非公開にさせてくれないのよ……」
フォーが頬杖をつく。
「マスメディアの取材とかもあるし、ウチみたいなチームがそんな強豪クラブみたいなことをしたら大ひんしゅくを買っちゃうわよ」
「いくらでも買わせとけば良いでしょう、そんなもん……」
「ダメよ、露出することも大事。チームを知ってもらってナンボなんだから……これはオーナーの意向でもあります」
「はいはい、分かったわよ……それで?」
「それで?」
ななみが首を傾げる。
「いや、次の対戦相手の情報よ」
「ああ、『鎌倉レッドウォリアーズ』ね……」
「そう、それよ」
「それが……よく分からないのよ」
「よく分からない?」
「完全な情報統制を敷いていて……」
「もう負けているじゃない!」
「ええっ⁉ そ、そんな……」
「現代サッカーは情報戦よ? あなた、情報もなしで戦えって言うの⁉」
「ちょ、ちょっと待って……」
ななみが慌ててノートパソコンを操作する。
「はあ……頼むわよ、本当……」
「け、検索しても、こういうのしか出てこないわ……」
パソコン画面を見て、フォーが顎に手を当てる。
「ふむ……平凡なアマチュアチームの域を出ないって感じね……」
「恐らくこれが次の予想スタメンだけど……」
「まあ、これくらい分かれば上等かしらね……」
そして、迎えた試合当日……。ななみがピッチを眺めて唖然とする。
「こ、これは……」
「全然予想スタメンと違うわよ⁉ なんか、スキンヘッドがやたら多いし!」
「鎌倉はお寺多いし……出家したとか?」
「そんなわけあるか! 完全に出し抜かれたわ!」
フォーが頭を抱える。
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