第7話(4)対松戸戦後半戦

「ピィー!」


 後半開始の笛が鳴る。松戸がゴブのサイドにボールを集めてくる。


「また同じような組み立てを……」


「リードしているんだし、上手く行っていた方法を変える必要は無いわね」


 ななみの言葉にフォーが応える。


「松戸の選手たち、動きが鈍っていないようだけど……油断も無さそうだし」


「……この場合、油断は別の所に生じているわね」


「別の所?」


「あっちよ」


 フォーが松戸のベンチに向かって顎をしゃくる。ななみが首を傾げる。


「相手のベンチ?」


「ええ、こちらがメンバー数ギリギリだから、選手交代も出来ずどうしようもないと思い込んでいるんでしょう。それが油断よ」


「は、はあ……あっ!」


 レイブンが巧みにボールを奪う。フォーが笑う。


「1対1が強い選手だから、守備のデュエルでもそうそう負けないのよね……」


「しかも、ゴブちゃんとスラちゃんと連携が取れていたわ!」


「ロクに練習していない癖に……この辺のセンスは流石ね。褒めるのもなんだか癪だけど」


「それっ!」


「は、はい!」


「よしっ!」


「は、はいラ~!」


「レイブン、ゴブちゃんとスラちゃんとパス交換して敵陣に入ったわ!」


「ようやくまともに前を向けたわね……」


「ふん!」


「そこからドリブル⁉」


「技術が高いから、あの状態ならそうそうボールを失わないわ……」


「相手の判断が遅れている!」


「この試合、ほとんど初めて攻められるわけだからね」


「これはチャンスじゃない⁉」


「そうね。さあ、どうするかしら?」


「……ふん!」


「!」


「‼」


 レイブンが相手ディフェンスを数人引き付け、絶妙なタイミングでスルーパスを前線にいるトッケに通す。


「もらったにゃ~!」


 トッケがあっさりとゴールネットを揺らす。ななみが喜ぶ。


「や、やった! 1点返したわ!」


「まさか、魔王のスルーパスとは……これはこっちも虚を突かれたわ」


 フォーが笑みを浮かべる。さらにレイブンの見事なサイドチェンジからルトが1点、レイブン自身の圧倒的な個人技で1点。スコアはあっという間に3対5となった。


「わりと早い時間で2点差に出来たわ!」


「こうなると、相手に迷いが生まれるわよね……」


「! 攻め方を変えてきた⁉」


 ななみの言葉通り、松戸は攻撃のリズムを変えてきた。しかし、フォーは冷静さを保つ。


「逆サイドを狙うなら、ゴブの役割をルトに任せるまで……中央でパスを繋ぐなら、トッケを下げてきて守備に参加させる……」


「トッケちゃん、戻ってくるタイミングが良いわ! レムちゃんの指示ね⁉」


 ななみの問いにフォーが頷く。


「コーチングってやつね……最後方からならピッチの様子が良く見えるから……」


「! ドリブルで仕掛けてきたわ!」


「さっきも言ったように、魔王との1対1でのデュエルを制するのは簡単ではないわ。仮にパス交換などで突破しても……」


 パスをスラがカットする。ななみが歓声を上げる。


「スラちゃん!」


「残念、そこはスラの守備範囲よ」


 フォーが笑みを浮かべる。スラのパスカットからカウンターとなり、レイブンが再び絶妙なスルーパスを通し、トッケがゴールを奪って1点差。松戸の変化にななみが気付く。


「攻撃パターンを戻してきたわ!」


「成功体験にすがるのよね……クーオ!」


「⁉」


 右サイドにポジションを移したクーオが競り合いを制し、ボールを奪う。攻撃の起点を作ろうとした松戸の思惑が外れる。クーオが前方に思い切りボールを蹴り出す。走り込んだトッケがこれを受け、ボールを中央に折り返す。走り込んだルトがそれに合わせる。これで船橋が同点に追いつく。試合が再開されるが、松戸は尚も戸惑っていた。そこを突いて、レイブンがボールを奪い、すぐさまゴール前に進出する。


「……終わりじゃ」


 レイブンの強烈なミドルシュートがゴールネットに突き刺さる。試合終了の笛が鳴る。


「ピッピッピー!」


「やった! 初戦突破よ!」


 ななみが両手を万歳させる。

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