第6話(4)勇者の実力

「なっ⁉ ま、まさか……」


「そのまさかさ。あの娘、ラドは人竜族の末裔……」


 驚くレイブンにローが告げる。


「あんな大きさのドラゴン、ドラゴンレーシングでも見たことないわ……」


 ななみが呆然と呟く。レイブンが唇を噛む。


「くっ……」


「さあ、ラド! 一気にゴールを狙え!」


「シャアアア!」


 ラドと呼ばれた女の子、もといドラゴンはボールを蹴ろうとする。フォーが指示をする。


「ク、クーオ! とにかくブロックよ!」


「お、おう!」


「ガアアア!」


「ぬお⁉」


 ラドの放った強烈なシュートはクーオのブロックをいとも簡単に弾き飛ばす。レイブンが声を上げる。


「レム! 止めろ!」


「しょ、承知! むう⁉」


 シュート速度が凄まじく早かったため、レムは体をわずかに動かすのが精一杯だった。ボールはゴールネットに突き刺さる。


「アアア! ……やったあ!」


 ドラゴンから普通の女の子の姿に戻ったラドが無邪気に喜ぶ。


「よくやったぞ、ラド!」


 ローが笑顔で声をかける。


「へへ……」


 ラドが嬉しそうに鼻の頭をこする。


「ちっ……まだ1点取られただけじゃ!」


「~♪」


 ななみが笛を鳴らす。ボールがレイブンの下に収まる。


「こうなったらワシがやってやる!」


「独りよがりなプレーはよくないよ」


 ローが笑みを浮かべる。


「うるさい!」


「レイブン! さっきみたいにパスを使って!」


 フォーが指示を出す。


「そんなものは必要ない!」


「ひ、必要ないって……」


「こちらが数で上回っているのだ、余計な小細工はいらん!」


 レイブンがドリブルで相手陣内に突っ込む。


「くっ!」


「リン、下がっていろ!」


「なに⁉」


「ここは僕がやる!」


「ロー!」


「ラド、大丈夫だ!」


「ロー……」


「レイナ、心配ない!」


「……呼んでみただけだ……」


「あ、そ、そうかい……」


 仲間たちにローは余裕をもって答える。


「うおおっ!」


 レイブンが突っ込む。


「これ以上は行かせないよ!」


「む⁉」


 レイブンの前にローが立ちはだかる。


「ははっ、まさか君の前に僕が立ちはだかるとはね……」


「捻り潰してくれるわ!」


「そんなことをしたらファールだよ?」


「言葉の綾じゃ!」


 レイブンが突き進む。


「それっ!」


「なっ⁉」


 ローがレイブンからボールをあっさりと奪ってみせたのである。ローが笑う。


「ふふふ……」


「そ、そんな馬鹿な……」


「これで終わりかい?」


「くっ……返せ!」


 レイブンがローに迫る。


「おっと!」


「!」


 レイブンの鋭いタックルをローはいとも簡単にかわしてみせる。


「ふふっ!」


「笑うな!」


「いやあ、楽しくてね! 君はどうだい?」


「不愉快じゃ!」


 レイブンがさらに激しく迫る。ローが煽る。


「奪えるものなら奪ってみなよ!」


「ぐっ……」


 レイブンが体を寄せるが、ローからボールを奪えない。フォーが声を上げる。


「ルト! ゴブ! レイブンのフォローに行きなさい!」


「……お遊びはこの辺にしておこう」


「‼」


 ローが自分の周りに集まってきた者たちをあざ笑うかのように、リンにパスを出す。


「リン! 前方へ蹴り出してくれ!」


「ああ!」


 リンが大きくボールを蹴り出す。ボールはラドの頭上へ飛んでいく。


「ラド! 落とせ!」


「うん!」


 再びドラゴンの姿になったラドがボールを頭で叩きつける。そこにローが走り込む。


「ク、クーオ! 止めなさい!」


「遅いよ!」


「⁉」


 ボールをキープしたローはクーオのタックルを難なくかわし、ゴール前に侵入する。


「もらった!」


「ぐっ⁉」


 ローの放った鋭いシュートに対し、レムは一歩も動くことが出来ず、ボールはゴールネットを揺らす。ローが得意気に振り返る。


「……ざっとこんなものだよ」


「くっ……」


「この程度の実力ならば、大会に出たところで無駄だと思うけどね……辞退した方が恥をかかなくて済むよ?」


「むう……」


「さて、挨拶というか、忠告は済んだ。3人とも、帰るとしようか」


 ローたちが悠然と引き上げる。ななみが立ち尽くすレイブンに声をかける。


「レ、レイブン……」


「……おれ」


「え?」


「今にみておれ……次は貴様が這いつくばることになるぞ、勇者ロー……」


 レイブンは静かに呟く。

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