第6話(3)勇者と仲間たち

「証明じゃと?」


「ああ、ちょうど良いグラウンドがあるじゃないか」


「まさかこんな時間に試合をする気か?」


「そんな大げさなものじゃないよ、ミニゲームとでも思ってもらえば良い」


「はっ、くだらん……」


 レイブンが苦笑する。


「……逃げるのかい?」


「なに?」


「まさか魔王と呼ばれるほどの君が臆したと?」


「……そんなわけがなかろう」


「ならば少し遊ぼうじゃないか」


「よかろう……」


「レ、レイブン……」


「ななみ、他の連中を集めてきてくれ……」


「う、うん……」


 ななみがメンバーを集めてくる。約十分後、レイブンのチームとローのチームがグラウンドで対峙する。レイブンが笑う。


「はっ、貴様のチーム……4人しかおらんではないか」


 レイブンが顎をしゃくる。ローの後ろには3人の女性が立っているだけである。ローが首をすくめる。


「あいにく、車が4人乗りでね……」


「それでは試合が成立せんぞ」


「ミニゲームと言っただろう? あくまでも余興の類さ。それに……」


「それに?」


「これくらいがちょうど良いハンデになる」


「!」


「……どうかな?」


 ローが笑みを浮かべる。レイブンが腕を組んで頷く。


「面白いことを言うな。受けて立ってやる」


「それでは試合開始だ。2点先取した方が勝ちというルールで良いね?」


「ああ」


「それじゃあ、ミスななみ……開始の笛をお願いします」


「あ、は、はい、分かりました……」


 ななみが戸惑いながら笛を吹く。レイブンチームでキックオフとなり、ボールがレイブンのもとに転がる。


「さっさと終わらせる! ルト!」


「は、はいっす!」


 レイブンがルトに鋭いパスを送る。


「お前とトッケのスピードで圧倒するんじゃ!」


「わ、分かったっす! トッケ!」


「よっと! それみゃあ!」


「よしっす!」


 ルトとトッケの素早くリズミカルなパス交換で、あっという間に相手ゴール前まで迫る。レイブンが声を上げる。


「よし、シュートじゃ!」


「も、もらったっす!」


 ルトが鋭いシュートを放つ。ボールはゴール目指して飛んでいく。


「……はあ」


「なっ⁉」


 ゴール前に立っていた、ローブに身を包んだ茶髪の女性がさっと手をかざすと、ボールは空中でピタッと止まる。


「はあ……」


「おっと⁉」


 女性が再び手をかざすと止まっていたボールが弾き飛ばされたようになり、トッケの前にコロコロと転がる。ルトが声を上げる。


「トッケ、チャンスっす!」


「お、おう!」


 今度はトッケが鋭いシュートを放つ。


「面倒ね……」


「みゃあ⁉」


 トッケのシュートもゴールラインを割らず、その手前でピタッと止まる。ローが笑う。


「さすがは賢者レイナだ」


「ま、魔法を使ったのか⁉」


「ああ、彼女はこの世界に戻ってきてからも、それほど魔力に影響が出なかったようだからね……もっとも完全というわけじゃないようだけど」


 ローがレイブンに向かって告げる。レイナと呼ばれた女性が面倒そうに呟く。


「さっさと終わらせて……」


「うおっ!」


「みゃあ!」


 レイナが手を振ると、ボールが動き出し、ルトとトッケに当たり、フィールドの中央に転がる。レイブンが指示を出す。


「スラ! ルーズボールを確保しろ!」


「わ、分かったラ~!」


「甘い!」


「どわあ~!」


 スラが白い拳法着を着た女性にボールごと蹴り飛ばされる。ボールがこぼれる。


「スラ! くっ!」


 ゴブがこぼれたボールを拾おうとする。


「させん!」


「ぐほっ⁉」


 女性が長い脚を伸ばし、ボールを強引にかっさらう。ゴブはたまらず吹っ飛ばされる。


「さすがは格闘家リンだ……」


「審判! ファールじゃろう!」


 ローが呟く横で、レイブンがななみに抗議する。


「え、えっと……」


「審判、勘違いするな」


 リンと呼ばれた女性がななみに向かって呟く。


「え?」


「……私はサッカーをやっているまでだ」


 ボールをキープしながらリンが構えを取る。レイブンが声を荒げる。


「ふ、ふざけるな!」


「ちゃんとボールに足がいっているぞ……」


「審判!」


「ノ、ノーファール!」


「なんじゃと⁉」


 ななみの下した判定にレイブンが愕然とする。


「ふっ……」


「リン! ゴール前へ!」


「ああ! それ!」


 ローの指示に従い、リンが強烈なキックを前線に蹴りこむ。そこには小柄な赤毛の女の子が立っていた。女の子は転がってきたボールを足元に収める。


「クーオ! ボールを奪え!」


「わ、分かったっぺ!」


 レイブンの指示を受け、クーオが女の子に向かって迫る。体格差は歴然としている。ゲームをライン際で眺めていたフォーが声を上げる。


「クーオ! ちょっと当たっただけでもファールになる恐れがあるわ! 冷静にね!」


「ああ! む⁉」


 クーオが驚く。女の子が巨大なドラゴンに変化したからである。

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