第6話(2)勇者の挨拶
「久しぶりだね」
ローが右手を挙げる。
「き、貴様、いつの間に?」
レイブンが驚く。フォーが顎に手を当てて呟く。
「空間転移魔法? アタシが魔力を感知出来ないとは、なんて高度な……」
「いや、普通に車で来たのだけど……」
「え?」
「え?って言われても……」
「じゃあこの会見は?」
「いや、録画だろう?」
「ああ、そうか、そうよね……」
フォーが頷く。レイブンが尋ねる。
「何の用じゃ?」
「ちょっとご挨拶にね……」
「挨拶じゃと?」
「君がサッカーをするとは思わなかったよ」
「ふん、この世界を征服するには近道じゃと思ったからのう」
「君は征服以外に考えられないのかい?」
「そこに平和な世界があるなら征服する……それが魔王というものじゃ」
「どうか考え直してはくれないか?」
「なに?」
「この世界に戻ってきてまで、君と戦いたくはないんだ」
「む……」
「出来ることなら……」
「ん?」
「共存することが出来ればと思っている」
ローが手を差し伸べる。レイブンが笑う。
「はっ、冗談も休み休み言え」
「冗談ではないさ」
ローが真っ直ぐにレイブンを見つめる。
「……そんなわけにはいかん」
「どうしてだい?」
「貴様が勇者で、ワシが魔王じゃからじゃ」
「……君にとって、ここは異世界じゃないか」
「……それがどうした?」
「魔王ではなく、普通の青年として生きる道もあるのじゃないか?」
「お言葉を返すようじゃが……」
「ん?」
「貴様がワシらの世界でそのように振る舞えば良かったのではないか?」
「いやいや、そういうわけにはいかないよ」
「何故?」
「何故って、魔王が世界を征服しようとするのを、ただ指をくわえてみているわけにはいかなかったからね」
「ふん。それと同じことじゃ」
「そうかな?」
「そうじゃ」
「違うと思うのだけど……」
ローが首を傾げる。
「とにかく、共存などまったくあり得ぬ話じゃ」
「そうか……」
「ああ」
「それならばやはり……」
「やはり?」
「止めなければならないね」
「どうやって?」
「おいおい、会見は見たのだろう?」
ローがテレビを指し示す。
「……サッカーでか」
「そういうことだよ」
「出来るのか?」
「むしろそれはこちらの台詞だよ」
「なに?」
「いくら魔王といえど、サッカーはそんなに甘いものではないよ」
「はっ、何を言うかと思えば……」
「おっと、余裕そうだね……」
「あいにく、我がチームは目下連勝中でな」
「それは聞いているよ」
「そうか」
「調子が大分良さそうだね」
「絶好調だ」
「ふむ……」
「この調子ならば、サッカーによる世界征服も容易そうじゃ」
「……それはどうかな?」
「なに?」
「繰り返しになるけど、サッカーというのはそんなに甘いものではないよ」
「ふん、こやつと似たことを言うのじゃな……」
レイブンはななみの方に顎をしゃくる。ローが尋ねる。
「貴女は?」
「あ、えっと……このクラブの代表兼広報エトセトラの七瀬ななみです」
ななみが名刺を差し出す。
「これはご丁寧にありがとうございます。こちらも……勇者ローです」
ローが名刺を返す。ななみがそれを見て小声で呟く。
「まさか勇者と名刺交換をする日がくるなんてね……」
「それで?」
レイブンがローに尋ねる。
「うん?」
「サッカーは甘いものではないのじゃろう?」
「ああ、そうだ」
「何故そう言える?」
「僕は元々この世界の人間だ。このサッカーというスポーツの規模や影響力の大きさについてはよく知っているつもりさ」
「ほう……」
レイブンが顎に手を当てる。
「結論から言えば……魔王レイブン、君のチームに世界を制することは不可能に近い」
「ふん、言ってくれるではないか……」
ローの言葉にレイブンが笑みを浮かべる。
「ここまでわざわざジョークを言いにきたわけではないよ」
「じゃろうな、ジョークにしてはセンスが足りん」
「……警告しに来たんだよ」
「警告じゃと?」
「ああ、そうさ」
「どんな警告じゃ?」
「恥をかく前にサッカーを辞めるべきだ……ってね」
「! 言ってくれるな……」
「お分かりいただけたかな?」
「……はい、分かりましたとでも言うと思ったか?」
「……ならば証明してみせよう」
ローが窓の外のグラウンドを指差す。
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