第7話(1)魔王の意地

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「もっと、パスを正確につなぎなさい!」


「パスなど不要じゃ!」


 レイブンがフォーの言葉を無視して、強引にドリブルを仕掛けていく。


「ちょ、ちょっと何やってんのよ⁉」


「ふん!」


「!」


 レイブンの放ったシュートがゴールネットを揺らす。


「……」


 レイブンはどうだと言わんばかりにピッチ脇に立つフォーに目をやる。


「はあ……」


「なんじゃ、そのため息は?」


「……あのね、サッカーというのはチームスポーツなのよ?」


「それくらい分かっておる」


「分かっていないわよ! そんな一人よがりのプレーじゃ、これから先のレベルでは絶対通用しないわ!」


「個の力……」


「え?」


 レイブンの呟きにフォーが首を傾げる。レイブンは続ける。


「個の力……個人技を磨き上げれば、十分に戦える」


「そんな!」


「結局は局面での一対一を制することが出来れば自ずとチームとしての勝率は上がる」


「また極端なことを言い出したわね……」


 フォーが呆れる。


「極端か?」


「ええ、極端よ。いい? アタシたちのチームは人数がギリギリなのよ?」


「それは承知しておる」


「対戦するチームより4人も少ない状態でゲームをしないといけないの」


「それも承知しておる」


「ならば尚更チームワーク……チームとしての団結力が試されるのよ!」


「もとより団結力はあるじゃろう」


「なんですって?」


「ワシのカリスマ性の下、こやつらはまとまっておる」


 レイブンは周囲の皆を指し示す。皆が体勢をビシっと直す。


「それはあくまでも魔王と配下の主従としての話でしょう?」


「違うのか?」


「違うわよ、そういうのはスポーツとしてのチームワークとは言わないわ」


「ふむ……」


「分かった?」


「では、どうすれば良いのじゃ?」


「チームとして連携プレーを磨き上げていくのよ」


「はっ、くだらんな……」


 レイブンがピッチから出る。フォーが声を上げる。


「どこ行くのよ?」


「今日は疲れた。先に上がる」


「そ、そんな勝手な振る舞いが許されると思っているの⁉」


「思っている」


「なっ⁉」


「なんせ魔王じゃからな」


「なっ……」


「ご苦労……」


 レイブンがクラブハウスに戻ろうとする。


「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!」


「……」


 レイブンが立ち止まって振り返る。


「おっ、と、止まった……」


「……一つ言っておく」


「な、なによ……」


「連携プレーでもなんでも勝手に磨くが良い。ただワシのやり方はワシが決める。口出しは一切無用じゃ」


「そ、そんな!」


「何故ならば……」


「何故ならば?」


「魔王じゃからな」


「け、結局それじゃない!」


「シャワーを浴びてくる……」


「あ……」


 レイブンはスタスタとクラブハウスに戻っていく。最後に振り返る。


「……覗くなよ?」


「覗かないわよ!」


「ならばよい……」


「ったく、何様のつもりよ!」


「魔王様のつもりじゃない?」


 用事を終えたななみがグラウンドに姿を現す。


「あっ、ななみ、アンタからもなんか言ってやってよ!」


「どうせあの様子じゃ、何を言ったって聞く耳を持たないでしょ……」


「それはそうかもしれないけど……」


「その辺の機微はフォーちゃんとかの方が良く分かっているんじゃない?」


「それにしたって、もうちょっと聞く耳を持っていた方だと思うわよ……」


 フォーが唇をプイっと尖らせる。


「……意地になっているのかもしれないわね」


「意地?」


「ええ、この間の勇者さんとの一件以来……」


「ああ……」


「勇者さんたちに張り合おうとするあまり、己の持つ力だけでなんとかしてしまおうと……向こうがチームで来るなら、こちらは個の力だと……」


「魔王たるもの、勇者の下風に立つわけにはいかないと?」


「そうそう、そんな感じ」


 ななみが頷く。フォーが頭を軽く抑える。


「なるほど、あの馬鹿の考えそうなことね……」


「とにかく練習は続けて。連携プレーを磨くのは間違いじゃないわ」


「まあ、そのつもりだけど……ななみ、用事ってなんだったの?」


「色々ね……ああ、そういえば大会の組み合わせが決まったわ」


「本当⁉」


「ええ、忘れるところだったわ」


「アンタも結構お気楽ね……それで? 相手は?」


「これが組み合わせ表よ」


 ななみが紙をフォーに渡す。フォーがそれに目を通す。


「……! こ、これは……!」


「そうよ……」


「ジパング語難しいから分からないわ」


「⁉」


 ななみが思わずズッコケる。フォーが笑う。


「冗談よ」


「あのねえ……」


「『シュタルカーヴィレ松戸』、強豪チームね」


「ええ、一回戦から強敵とぶつかるわよ」


 ななみが真面目な表情で頷く。

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