第4話(3)魔女、就任

「なによ、そんなに喜ぶこと?」


「い、いや、驚いたのだけど……」


「っていうか、この小娘は?」


「こ、小娘⁉」


 フォーに指を差され、ななみはムッとする。レイブンが答える。


「七瀬ななみ……このクラブの代表じゃ」


「そ。よろしくね、ななみ」


「よ、よろしく……」


「選手のところに案内してよ」


「……本当に監督をやる気か?」


 レイブンが問う。


「ええ、魔王の参謀には魔女がつきものでしょ?」


「でしょ?と言われてもな……」


「良いでしょ?」


「まあ、断る理由はないか……」


「決まりね」


 フォーがニコっと笑う。


「ちょ、ちょっと待った!」


 ななみが右手を前に突き出す。


「……なによ?」


「代表は私よ、勝手に決めてもらっては困るわ!」


「監督がいないとなにかと困るのはそっちでしょ?」


「そ、それはそうだけど……あなた、本当にサッカー好きなの?」


「さっきも言ったでしょ? 週末はサッカー観戦に興じていたわ」


「み、観るだけじゃ監督なんて……」


「アタシは向こうの世界では天才魔女と謳われたのよ? どんな難解な理論で構築された魔法でも、一目見れば使いこなせたわ」


「ま、まあ、それなりの知性は感じる顔立ちだけど……」


「そ、それなりって何よ、それなりって!」


「ルックスもかわいいわね……」


「あ、あら、分かっているじゃないの……」


 フォーが両手で頬を抑える。ななみが腕を組んで呟く。


「ベンチにいればそれだけで話題にはなるかしら……」


「わ、話題づくり? ま、まあいいわ。アタシが監督で良いわね?」


「い、いや、ライセンスとか持っていないと……!」


 フォーがカードをななみに向かって突きつける。


「これで良いんでしょ?」


「こ、これなら監督には十分……! どうやってこれを⁉」


「ヒマだったから取ってみただけよ」


「か、かなり難しいと思うんだけど……」


「天才だって言ったでしょ? 魔女の学校の試験に比べればなんてことはなかったわ」


「そ、そんな……」


「決まりね、アタシが監督ってことで」


「ちょっと待った!」


「……だから何よ?」


「……壁、直していって」


 ななみが壁を指差す。


「あ、ああ……」


 フォーが壁を修復する。ななみが頷く。


「うん、よろしくね、監督」


「よ、よろしく……」


 ななみがロッカールームにフォーを連れて行く。


「……というわけでこちらのフォーちゃんが新しい監督になります」


「フォーちゃん⁉」


「フォーちゃん、一言どうぞ」


 ななみに促され、フォーが皆の前に進み出る。


「ええっと……知った顔ばかりだけれどもあらためてよろしくね」


「フォーもこっちの世界に来ていたのラ~」


 スラがフォーに抱きつく。


「ええ、そうよ」


「突然いなくなって心配したラ~」


「あらそう、どこかの魔王様に聞かせたいわね……」


 フォーがレイブンを睨む。


「だ、だから、色々と立て込んでいたと言ったじゃろう!」


「ふん……」


「無事でなにより……」


「ありがとう、レム」


 フォーはレムに対してウインクする。


「勇者と交戦したって話を聞いたみゃ~」


「ええ、そのせいでこの世界に転移してしまったようなのよ」


 フォーがトッケに応える。レムが呟く。


「……我々と似たようなケースだ」


「ああ。こうなった原因は?」


「さあね、そこまでは……」


 トッケの問いにフォーが首を振る。


「天才魔女でも分からないならお手上げみゃあ~」


「とにかく今、ワシらがやるべきことはただ一つじゃ……」


 レイブンが口を開く。フォーが首を傾げる。


「うん?」


「サッカーでこの世界を制覇することじゃ!」


 レイブンが右手の人差し指を上に向ける。


「おおっ、燃えてきたっす!」


「やったるべ!」


「見てろよ~!」


 ルトとクーオとゴブが揃って拳を突き上げる。フォーが苦笑する。


「……こっちの世界に来てもアンタらは単純で羨ましいわ」


「なっ⁉」


「なんだと⁉」


「ど、どういう意味っすか⁉」


 ゴブとクーオとルトが揃ってムッとする。フォーが両手を挙げる。


「良い意味で言ったのよ、良い意味で。なにごとも真面目で素敵よ」


「な、なんだ~」


「良い意味だべか~」


「なんだか照れるっすね~」


「た、単純……! いや、扱い方を十分に心得ているのかな?」


 ななみが小声で感心する。


「それでななみ、今日はどうするの?」


「え? えっと、次の試合に向けて練習を……」


「オーケー、それじゃあ、練習しましょうか」


「練習メニューは……」


「今日のところは任せるわ」


「そ、それじゃあ、みんな、練習しましょう!」


 練習を終え、片付けを終えたレイブンたちがミーティングルームに集められる。


「練習を見させてもらって、アンタたちの大体の実力が分かったわ……」


「?」


「その上でアタシが新たなポジションをアンタたちに任せるわ!」


「⁉」


 フォーの発言に皆が驚く。

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