第4話(2)魔女っ娘フォー

「貴様は……」


「やっと見つけたわよ!」


「こ、この魔女っ娘は?」


 ななみがレイブンに問う。


「フォーじゃ」


「あ、知り合いなの?」


「まあ、ちょっとしたな……」


「ちょっとしたどころじゃないでしょ⁉」


「って、言っているけど……」


「……我が配下の魔女軍団の軍団長じゃ」


「え⁉ 軍団長?」


 ななみが驚いた目でフォーと呼ばれた女子を見つめる。とんがり帽子をかぶり、黒いローブを身に纏った女子が声を上げる。


「なによ、文句ある⁉」


「い、いや、別に文句はないけど……」


「それはそうとレイブン!」


「なんじゃ?」


「なんじゃ?じゃないわよ、アンタおかしくない⁉」


「なにがじゃ?」


「一年も軍団長が不在だったら心配するでしょう⁉」


「い、一年⁉」


 ななみが驚く。


「そうよ、こいつは一年もアタシのことほったらかしだったのよ!」


「そ、それは……」


 ななみがレイブンを見つめる。レイブンが口を開く。


「これは確定的なことではないが……」


「なによ……」


「我々のいた世界と、こちらの世界では時間の進み方が異なるのかもしれん」


「なんですって?」


「一年も不在なら捜索活動に乗り出すはずじゃ」


「なるほど……っていうことは、アタシがこの世界に転移して……つまりそちらの世界から姿を消してまだ数日しか経っていなかったってわけね」


「いや、数ヶ月じゃな」


「す、数ヶ月⁉」


「ああ」


「いや、ああ、じゃないのよ! そんなに不在だったらさっさと捜索しなさいよ!」


「色々と立て込んでおってな……」


 レイブンが後頭部をかく。


「そうだとしてもよ!」


「まさか異世界に転移しているとは考えがなかなか及ばん」


「そ、それはそうかもしれないけど……」


「時にフォーよ」


「なに?」


「貴様も勇者一行と交戦したという報告を受けているんじゃが……」


「ええ、そうよ」


 フォーが頷く。


「その交戦後、行方不明になったと……」


「これはアタシの推測でしかないんだけど……」


 フォーが顎に手を当てる。


「構わん、聞かせてみろ」


「アタシの超強力な魔力と勇者パーティーの持つ力が激しくぶつかり合うことによって、この世界に飛ばされたんだと見ているわ」


「ふむ……超強力かどうかはともかく、大体ワシの見立てと一緒じゃな」


「ってことはアンタも?」


「ああ、勇者パーティーとの交戦中、気が付いたらこの世界に転移しておった」


「……全裸でね」


「ななみ、余計なことは言わんでいい」


「ふ~ん……」


 フォーが腕を組む。レイブンが尋ねる。


「この世界に一年もいるということは……どうじゃ?」


「え?」


「元の世界に戻れる方法は見つかったか?」


「……見つけていたら、ここにいないでしょ?」


 フォーが手を広げる。レイブンが苦笑する。


「ふっ、それもそうじゃな……」


「とにかくこの一年、大変だったわよ……」


「そうなのか?」


「ええ、右も左も分からない異世界……生き抜くことで精一杯だったわ」


「そうか……」


「まあ、一番大変なのは……」


「うむ……」


「今のこの状態よ! 早く引っ張り出しなさいよ!」


 壁に半身がめり込んだ状態でフォーが叫ぶ。


「あ、ああ……」


「ああ……じゃないわよ、普通気が付かない⁉」


「いや、てっきり気に入っているのかと……のう?」


「ええ、そちらの世界の流行りなのかなって思って……」


 レイブンの問いにななみが頷く。フォーが声を荒げる。


「どこの世界に壁に半身めりこませることが流行するのよ⁉」


「ふん、仕方がない……」


「せーの!」


「どわっ!」


 レイブンとななみがフォーを引っ張り出す。


「……フォー、これまで何をしておったのじゃ? この世界じゃと魔法もロクに使えなかったのじゃないか?」


「……そうね、日によってある程度使えたり、全然使えなかったりって感じだったわ」


「日によって?」


「または体調によってかしらね。主にこの世界のヨーロッパって呼ばれる地方を自由気ままに旅しながら、占いで日銭を稼いでいたわ」


「占い?」


「なんかこの恰好が占い師っぽいとか言われたからね」


 フォーは自分のローブをつまんでみせる。


「そんな魔法を習得しておったのか?」


「未来が視える魔法なんてないでしょう? 水晶玉をちょっと浮かせたりしてみせて、それっぽいことを言っていただけよ」


「ふむ……それでどうしてここに?」


「日銭を稼いでは週末にフットボール――こっちではサッカーかしら?――を観戦するのが楽しみだったのよ。そうしたら、極東の地で魔王のチームが誕生したって言うじゃない」


「ま、魔王のチーム……乗っ取られているわね」


 ななみが苦笑する。


「とりあえず合流しなきゃと思って、体調がすこぶる良かったから、転移魔法を久々に使ってみたってわけ。そうしたら……」


「壁にハマったか……ふっ、ワシらと似たような状況じゃな……」


「ん? どういうこと?」


「監督が不在でな。どうしたものか……」


「監督? ああ、それならアタシがなってあげるわ」


「ええっ⁉」


 フォーの発言にななみが驚く。

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