第4話(1)監督確保?

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 クラブハウス内にて、レイブンとななみが話している。


「監督じゃと?」


「ええ」


「なんのために?」


「なんのためにって、いつまでも私が監督じゃ恰好がつかないでしょう」


「そうか?」


「そうよ」


「別に構わんと思うが……」


「あなたたちが良くても、周りが構うのよ、いい? この『アウゲンブリック船橋』は世界を目指しているクラブなのよ」


「それがどうした?」


「ルールブックなどを熟読しなかったの?」


「なに?」


 レイブンが首を傾げる。


「プロチームの監督にはライセンスというものの所持が必要なの」


「ふむ……」


「それを私は持ってないから……」


「所持すれば良いじゃろう」


「そんな簡単に言わないでよ……」


 ななみが苦笑する。


「難しいのか?」


「年に何人か合格するかとかそういうレベルね……」


「そうか……頑張れ」


「いや、無茶を言わないでよ」


「無茶か?」


「無茶よ」


「しかし、監督が居ないと色々マズいのじゃろう?」


 レイブンが腕を組んで首を捻る。


「まあね。しばらくは監督代行とかで誤魔化せると思うけど……やっぱり」


「やっぱり?」


「早急に解決すべき問題だと思うわ」


「当てはあるのか?」


「それが……あるのよ」


「あるのか⁉」


「ええ!」


 ななみがドヤ顔を見せる。


「……つまり、監督とやらを確保したと」


「そういうことよ」


 レイブンが周囲を見回す。


「で、そやつは今どこにいるんじゃ?」


「実は今日日本に到着します!」


「ほう、急な話じゃな? どういう奴なんじゃ?」


「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれました」


 ななみが笑みを浮かべる。レイブンが目を細める。


「……」


「北欧の雄、デンマークで実績を積み重ねてきた俊英よ!」


「デンマーク?」


「そうよ、北ヨーロッパにある国よ」


「ここだったか?」


 レイブンがクラブハウスにあった地球儀をまわし、デンマークを指差す。


「あ、当たり……よくデンマークの場所が分かったわね……」


「この世界の地理はほとんど頭に入っておる……」


 レイブンは指で側頭部をトントンと叩く。


「そ、そうなんだ……」


「しかし、こんな遠い国とどういう関係で?」


「この船橋市とデンマークのオーデンセ市は姉妹都市なのよ」


「なるほど……その繋がりを使ったというわけか」


「そう、正直ダメ元で当たってみたら、日本で指導者としてのキャリアを歩みたいという人がいてね。勢いで交渉してみたら、それがとんとん拍子でまとまったのよ!」


「そうか……」


 レイブンが腕を組み直す。


「なによ、テンション低いわね!」


「すごさがいまひとつ分からんからのう……」


「国際S級ライセンス所持よ!」


「Sランク勇者みたいなものか?」


「うん? よ、よく分からないけど、そういうものよ!」


「勇者がワシらの上に立つのか……気に食わんな」


「勇者はあくまでたとえよ、言うなれば、救世主ね!」


「……なおさら気に入らんわ」


 レイブンが不機嫌そうに呟く。


「アンタにとってはそうかもしれないけど、このクラブにとっては間違いなく救世主だわ」


「今日到着すると言ったな?」


「ええ、言ったわ」


「ワシらと顔合わせになるわけじゃな」


「そうなるわね」


「そうか……」


 レイブンが指の骨をポキポキと鳴らす。ななみが慌てる。


「ちょ、ちょっと、何をする気⁉」


「何をするかは、そいつの態度次第じゃな……」


「変なことやめなさいよ!」


「そやつに言ってくれ」


「こ、こんなイロモノチーム……じゃなくて!」


「ん?」


「こんな訳ありチームにわざわざ来てくれる良い人が変なわけないでしょう⁉」


「ただの物好きだという可能性も否めんぞ」


「物好きでキャリアを犠牲にしないわよ」


「そういうものかのう……」


「ええ、きっとそうよ」


 それからしばらく時間が経ったが、新監督はなかなか現れない。レイブンが尋ねる。


「どういうことじゃ?」


「ひ、飛行機が遅れてるのよ……って、そ、そういうわけじゃなさそうね?」


 ななみが端末を確認して、首を傾げる。レイブンが笑みを浮かべる。


「これは……断られたか?」


「そ、そんな……まさかドタキャン⁉ なんて酷いことを……!」


「やはりゴブリンやゴーレムがいるチームの監督をすることに恐れをなしたのだろうな」


「ちょ、ちょっと待って、なにその動画⁉」


「昨日アップしておいた。どういうチームか知ってもらわねばならんからな」


「な、何を勝手に⁉ 彼らの存在は伏せて交渉を進めていたのに!」


「ははっ、ななみもなかなか酷いことするのう……」


 レイブンが笑う。


「笑い事じゃないわよ……どうすれば……⁉」


「む!」


 クラブハウスに爆発音のような音が鳴る。音の鳴った先にレイブンたちが向かうと、小柄な魔女の姿をした女の子が箒にまたがりながら、壁にめり込んでいた。ななみが驚く。


「なっ⁉」


「いたたた……もう何よ……って、ああ! 見つけた、魔王レイブン!」


 壁から顔を出した魔女っ娘がレイブンのことを指差す。

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