第3話(3)見かけ倒し
練習試合開始直前、アウゲンブリック船橋と対戦するチームのメンバーが不満を漏らす。
「お、おい……誰だよ、この試合受けたのは?」
「お、俺だよ……」
「キャプテン、お前かよ、なんで受けるんだよ」
「い、いや、話題の魔王のチームと試合をしたら色々バズるかなと思ってさ……」
「バズるより、命の方が大事だろうが、見てみろよ……」
男が相手側のフィールドを指差す。
「なんだよ?」
キャプテンが首を傾げる。
「右サイドにいるの、ゴブリンだぞ?」
「初めて見たな」
「ばか、俺もだよ」
「思ったより悪そうな顔しているな、小柄ではあるけれど……」
「それで真ん中にいるの、オークだぞ?」
「生では初めて見た」
「映像ではあんのかよ」
「もっとぶよっとしているかと思ったら、意外とガッシリとしているのな……」
「それで左にいるの、コボルトだぞ?」
「犬の顔は愛嬌あるな」
「アホか、犬の顔で、体は人ってのが、怖ええだろうが」
「すばしっこそうだな……」
「それらの前にいるの、スライムだぞ?」
「……ほぼ液状だな」
「目と口らしきものが付いているのが不気味だぜ……」
「思い出すな、ガキの頃、理科の授業でスライム作ったっけ……」
「それでゴール前にいるの、ゴーレムだぞ?」
「ゴールキーパーか。鉄壁そうだな、いや、土壁か?」
「んなのどうでも良いんだよ。あんなの点が入る気がしねえぞ……」
「動きはどうなんだろうな……」
「それで前線にいるの……ケットシーだぞ?」
「猫かわいい」
「いや、二足歩行で喋っている時点でかわいいから離れているだろうが」
「なんだか、眠そうにしているな」
「っていうかキャプテンよ……」
「っていうかお前さ……」
2人は顔を見合わせる。
「楽天的だな!」
「モンスターすげえ詳しいな!」
「え⁉」
「ん⁉」
「今、なんつった?」
「いや、随分モンスターに詳しいなと思って……普通コボルトとかケットシーとかパッと出てこねえよ」
「ゲ、ゲームとかでかじった知識だよ……っていうか、マジで楽天的だな!」
男が呆れる。
「そうか?」
「そうだよ、なんだよ、その余裕は……」
「キャプテンとしての風格……かな?」
キャプテンが顎に手を当てる。
「うるせえ、あみだくじで決めたキャプテンだろうが」
「っていうか、モンスターを判別しているお前も結構な余裕を感じるけどな」
「ビビってんだよ、あの中央にいる奴をみろよ」
男がレイブンを指差す。
「普通の人間もいるんだな」
「いよいよ馬鹿か。あいつが噂の魔王さまだよ」
「へ~人は見かけによらないというか……」
「呑気だな」
「でも本当に普通っぽいぜ?」
「そこが逆に恐ろしいんだよ」
「とは言ってもな……おっ、もうすぐ始まるぜ」
「ああ……本当になんで受けたんだよ!」
キャプテンがややムッとしながら呟く。
「……思い出したけど、お前らも『こいつらと俺ら試合したらウケんじゃね?』とか言って盛り上がっていたじゃねえかよ」
「それは飲み会の冗談だろう、真に受けんなよ!」
「なんだよ、面倒事は全部俺に押し付けてよ、後から文句言うなよ!」
「言いたくもなるわ!」
「お前……」
「なんだよ?」
キャプテンと男が小競り合いを始めようとする。周囲のメンバーが慌てて2人を引きはがし、落ち着かせる。やや間があって審判が試合開始の笛を吹く。
「ああ、始まっちまった……」
「よし、こっちボールでキックオフだ。それ!」
キャプテンが男にパスをする。男が戸惑う。
「い、いや、ボール寄越されても困るっての!」
男が前方にボールを蹴り出す。
「ああっ! 何やってんだ、せっかくのマイボールなのに!」
「うるせえ! 保持していたら、身の危険だろうが!」
ボールがクーオに向かって飛んでいく。クーオはヘディングの体勢を取る。
「跳ね返されるぞ、ルーズボール拾え!」
「……!」
「え⁉」
クーオの顔面にボールが思い切り当たり、ボールはフィールドを転々とする。
「! ……!」
こぼれたボールを蹴り出そうとしたルトだったが、キックが当たり損ね、ボールがあさっての方向へと飛んでいく。
「‼ ……!」
「⁉」
ゴブが慌てて拾いにいくが、同じくボールを拾いにいったスラの体で足をすべらせ、ボールをフィールド中央に戻してしまう。
「!……‼」
それを眠そうにしていたトッケが気づき、慌ててボールをヘディングする。このプレーは上手く行ったが、方向がマズかった。ボールが自分たちのゴールの方へと勢いよく転がっていってしまったのである。
「‼ ……⁉」
慌てて前に飛び出し、ボールを処理しようとしたレムだったが、ボールはその大きな体の股下を抜けていき、ゴールネットを揺らした。
「ピィー!」
審判が笛を鳴らす。キャプテンが呆然とする。
「は、入った……?」
「な、なあ、キャプテン、ひょっとしてだけどよ……」
「ん?」
試合が再開され、ボールがゴブに渡る。男は強烈なショルダータックルでボールを奪うと、軽やかなターンでクーオをかわし、鋭いシュートを叩き込む。レムは一歩も動けない。
「やっぱりだ! こいつら見かけ倒しだぜ! 大したことねえ!」
「よし!」
勢いづいたチームはゴールを重ねる。男が大笑いする。
「はははっ! なんだよ、雑魚モンスターどもじゃねえか!」
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