第15話 翔子、呼ばれる病院
私は病院にいた。
カーテンの隙間から見える窓の向こうは、静かな黒い夜が広がっている。
外とは相反するような、白を基調とした清潔な部屋。
頭には包帯が巻かれ、痛々しい姿の栄治がベッドに寝いてる。
ベッドのそばの低いイスに座り、栄治の頬に右手で触れる。私の冷たい手に栄治の生命の温もりが伝わった。
栄治はゆっくりと呼吸し、気持ちよさそうに寝ている。
「栄治……」
良かった……。 大した怪我じゃなかったみたいだね。
全く!
「ダメだよ。もう死んだりしたら……」
私は、そのまま右手で栄治の柔らかい頬を軽くつねった。
「ふ? うう……悪かったってぇ……翔子ぉ……」
栄治が寝ぼけていった。どんな夢を見てるんだろう。夢の中で何をしたんだ? コイツは。
「ふふふ……」
いい気味。
私はつねっていた手を離し、その場所にゆっくりと唇をつけた。
……。
ありがとう、栄治。
私は栄治の枕の近くに頭を置いた。布団の中に手を入れ、栄治の手を握る。
コチ、コチと時を刻む音だけが聞こえる部屋。
まぶたを閉じると、高校に入学してからの栄治との思いでが、次々と溢れ出て来た。まるで走馬灯みたい。屋上から飛び降りた時は見られなかったのに。
教室の中。
授業中。
掃除の時間。
付き合っていた時。ケンカした時。
たまにしか会えなかった放課後。
栄治の家、私の家……。
栄治の家の近くの公園。
初めてのキス。一人で泣いた夜。
あらゆる場面で、私を呼ぶ栄治の声が聞こえる。
翔子。
あ、そうだ翔子。
翔子?
翔子……。
翔子翔子っ!
なあ翔子~。
翔子っ!
どうした翔子?
翔子、翔子、翔子、翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子翔子!
――栄治っ!
頭の中で叫んだ。
もう涙は出ない。
どれくらいそうしていたのか、いつの間にか、秋の長い夜は明けていた。
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