第7話 翔子、再燃。
告別式から数日過ぎたある日。
私も学校も、香奈がいないという事実が過去になり、いつも通りの日常に戻ろうとしていた。そんな中、一人変わらないヤツがいる。
栄治だ。
今日も四限が終わると、すぐに教室を出て行った。向かう先はして散る。香奈がいた図書室だ。栄治は毎日、欠かさずに図書室に通っている。
香奈がそうしていたように。
栄治のパワーはすごい。原動力となっているのは香奈。それだけで何馬力もの力が生み出されている。私には無理だ。
「片桐さ~ん」
昼休みになり教室が騒然とする中、廊下の方から私は呼ばれた。
見ると栄治の友達の武志くんがいた。栄治とは小学校からの付き合いらしく、私も何度か栄治と共に遊んだことがある。
「栄治なら今日も図書室に行ったよ」
私は要件を聞かれる前に言った。
「また~?」
言いながら武志くんは教室に入り、私の隣の席に座った。さっきまで栄治がいた席だ。教科書は出しっぱなし。と言っても授業中は寝ていた。まったく。
「あいつ今度は誰に恋しちゃったの?」
購買で買ってきたのだろう、菓子パンの袋を開けながら言った。
「……さあねえ。栄治って昔からああなの?」
私はごまかした。認めたくなかった、んだと思う。顔に出てないと良いんだけど……。
「ん? そうだよ。片桐さんの時もそうだったし」
「え?」
初耳だ。栄治はまるで、隣の席の私に消しゴムでも借りるかのように告白したのだ。私はそれでもドキドキだったけど……。
「二年に上がってすぐ、テニスの新人戦があったっしょ」
「うん」
私が高校に入って、初めて賞を取った大会だ。
「俺、栄治に付き合わされて試合見に行ったもん」
「うそっ?」
栄治はそんなこと、一言も言ってない。
「でも栄治、テニスにはあんまり興味なかったと思うんだけど」
「そりゃそうだよ。栄治はテニスを見に行ったんじゃなくて、片桐さんを見に行ったんだから」
……。
急にあいつに会いたくなった。
「栄治さ~、何ていうか、見えない努力みたいなのが好きなんだよ」
それは何となく分かる。仲の良い人にバレているあたりが、また良い。
「女好きで軽そうなヤツに見えるけど、好きになった子には一途だしね」
それも分かる。
「何を犠牲にしても、その子のことを考える。付き合っていようが、いまいが」
……。
「だからまあ、好きな子ができると、今、付き合ってる子を簡単に捨てて泣かすんだけどね」
何か矛盾してる。
無意識に眉根にしわが寄った。
でも栄治らしいと思う。
しわが消えた。
……じゃあ今回は……。
香奈を好きになった栄治はどうするんだろう。
香奈はもういない。
決して結ばれることのない恋。
何を犠牲にしても……。
栄治……。ダメだよ。
今度は眉が下がった。
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