第3話 栄治、頼まれ事は軽く。
一昨日の夜から降り続いた雨もすっかり乾いた、秋晴れの月曜日。
俺こと新山栄治が通う、私立若葉高校では突然の全校集会が開かれた。担任に突然そのことを告げられ、ホームルームが終わるとそのままクラス全員体育館へ移動となった。
しかし今日は暑いな。
夏と違うところはセミが鳴いていないくらいだろう。
ブレザーは失敗だったな。
全校生徒が集合してもまだ余裕のある体育館。それでも千人近くの人間が集まると熱気がすごい。教頭の声でようやく体育館が静まり、集会が始まる。学期の初めと終わりにしか姿を見ない校長や理事長まで来ている。
経営難にでも陥ったか? と思ったが違った。
何てことはない。一年の女子生徒が交通事故で死んだそうだ。俺は二年だし、部活にも同好会にも入っていない。およそクラスメートと可愛い女の子以外の人間とかかわることは皆無に等しい。
とりあえず意味のない黙とうをして、全校集会が終われば、泣きじゃくる一年の女子の集団を後目にさっさと教室へ戻った。
全校集会で一時限目の現国はつぶれ、二時限目も自習となった。出された課題を基本的にやらない俺としては、ありがたいことこの上ない。クラスの話題は死んだ女子生徒のことで持ち切りのようだ。
校長は事故だと言っていた。ならばそうなのだろう。
別に事件性があるわけでもないのに、ありもしないような噂が流れている始末だ。俺はというと今宵開催される某お嬢様学校との合コンの為、精気を養うべく眠りについていた。
だが、そんな俺の安眠を妨害するヤツがいる。
ねえねえ、とさっきから俺の肩は揺さぶられていた。
声で分かる。隣の席の片桐翔子だ。まあ、いつものことなのであえて無視する。と、突然俺の上半身は宙に浮いた。テーブルクロス引きよろしく、音もなく俺の机を前方に引き抜いたのだ。
どんな腕力だ! とツッコむ間もなく、俺は重力に引かれるまま汚い教室の床に落ちた。多分、すごい間抜けな恰好だったと思う。
俺はゆっくり立ち上がる。
「何すんだ! 翔子ぉ!」
怒り気味の翔子の小さい頭を右手でガシっと抑え、グリグリしながら叫んだ。俺は身長が178cm、かたや翔子は165cm。女子の中では背が高い方だが、ちょうど掴みやすい高さに頭が来る。
「何すんだじゃないわよ! 寝たふりしないの!」
俺の右手を振り払うと、腰まである長い黒髪を軽くときながら反論した。
しっかし長い髪だな。
「で、何だよ。何か用か?」
「うん。あのね、宮島香奈ちゃんのことなんだけど……」
そう言って翔子の表情が一変した。よく見れば目は充血し、腫れ上がっている。
「誰だよ。宮島香奈って」
さっき校長が言っていたような気がしたが、とりあえず聞いてみる。
「さっき全校集会で言ってたじゃない! 一昨日交通事故で亡くなったって……。それでね、その子、私と中学の時から部活が一緒でね……」
また涙目になってきている。鼻水なんか垂れ流しだ。それでも翔子の美少女ぶりは劣らない。大したやつだ。
俺はハンカチを渡すと、優しく聞いた。
「それで?」
「ん、ありがと。それでね。今日告別式があるんだけど、一緒にいてくれない?」
「え? いや、えーと……」
合コン、翔子、合コン、翔子……。
俺のCPUは音を立ててフル回転していた。
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