第2話 翔子、悲しみに心非ず。

 数学の課題を終え、一息ついた午後十一時頃。

 ベッドに置いてあった携帯電話が鳴った。

 画面を見ると同じテニス部の香織だ。また恋の相談か?

 思いながら私は通話にスライドして、ベッドに横になった。

「もしもし?」

 ?

「しょうこぉ……」

 電話の向こうからは、泣きじゃくる香織の声が聞こえた。何を言っているのかよく分からない。

「香織? どうしたの? 落ち着いて話して」

 その後、香織がゆっくり話した言葉も、私はすぐに理解できなかった。


 かながしんだ。


 確かに香織はそう言った。

 かなって宮島香奈? いっこ下のテニス部の?

 頭が働かない……。

 しんだ……?

 今日だって午前中に元気に部活に来て、一緒に帰ったのに。明日遊ぶ約束だってしたのに。

 香織ももうただ泣いているだけで会話にならない。ただ、その悲鳴のような鳴き声だけが事実を伝えているように感じた。

「香織? 一回切るね。いい? 落ち着くのよ?」

 そう伝えると私は部屋着のスウェットのまま家を飛び出した。

 香奈の家は走って二十分ほどだ。私は頭を整理しながら走った。

 事故だろうか……。

 ふと気づくと、右手に携帯電話を握っていた。家からそのまま持って来てしまっていたらしい。昨日までトークしていたチャットアプリから香奈に電話をかける。コール音が鳴り続けるだけだが、私は電話を切らなかった。

 なんですかぁ? 先輩。

 何事も無かったように電話に出てくれることを祈った。

 香奈の家の前に走る大きな道路。赤い光がミラーボールのように住宅街を照らしていた。

 そこにはパトカーが三台停まり、警察官が交通整理をしている。横断歩道にも警察官が数人立っている。

 その足元には見覚えのある香奈の自転車。中に携帯電話が入っているのだろう、着信音の鳴る香奈のカバンが落ちている。

 そして、雨により広がりつつあるのは、ヘッドライトに照らされた赤い水溜まり……。

 赤色灯と相まって、いやに新鮮で、鮮明な赤が、翔子の心に染み付いた。

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