さわれない両想い
@keserasera1024
第1話 事故、故の事。
役目を果たした手のひらが、悔いなしと散っていく秋の中旬。ふと思い出したように、暑さを取り戻す太陽。行楽日和とニュースが伝えた今日は、快晴の土曜日。
高等学校のテニスコートを高い太陽が照らす。小柄な女子部員が、人一倍汗をかき、人の三倍は笑顔で部活を楽しんでいた。小さな体とは不釣り合いなラケットを振るたびに、肩ほどまでの黒いストレートヘアが元気に跳ねる。
私立若葉高校一年生、宮島香奈だ。
経験者なのだろう、他の一年生よりもテニスというスポーツに慣れている。先輩とも仲良く話し、香奈が幸せに生きている証拠がそこにあった。
部活動が終わると、香奈はいつものように自転車で予備校に向かう。真剣の二文字の瞳。講師の言葉に集中する耳。まだ高校一年生ではあるが、将来のことを考え自ら勉学に励む姿が見て取れる。
午後九時過ぎ。
高気圧はやがて大粒の雨を降らせ始めた。太陽が吸い上げた水を雲が降らせる。自然の摂理には何の意図もない。意図があると感じるのは人間だけだ。
あ、傘持って来てない。ついてないな……。
香奈は窓に打ちつける雨を見て、思った。
授業の終わった午後十時。雨の弱まりつつある夜空を見上げ、香奈は自転車をこぎ始めた。予備校から自宅まで数分の距離、香奈はそんなに濡れることはないと思っていた。実際、雨にはそんなに濡れず、自宅の前を走る国道を渡ろうとした時だった。
急げ、急げと点滅する横断歩道の青信号。左右を確認するとバイクだろうヘッドライトが遠くに一つ。香奈は横断歩道を急いで渡ろうとすると、向かいの歩道から暗闇に浮かぶ、小さな白いネコが飛び出した。
自転車のブレーキをぎゅっと握る。ほんの少し、気を取られた。香奈も白いネコを飼っていたからだ。ブレーキの音に反応し、ネコも香奈を見る。大きさから香奈の飼っているミルクではないと分かった。
分かった時、香奈は照らし出された。
香奈がバイクと認識したのは、片方のヘッドライトが壊れた大型トラックだった。
それに気が付いた時、香奈の耳には雨によりスリップするタイヤの音だけが聞こえた。
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