第17話 呪術配信#3|本当は恐ろしい? 呪具について!

 母親の方も、道具に頼って保つ家族関係を歪だと感じ、このままではいけないとは思っていたらしい。

 だが、再び壊れてしまうのが怖くて、ほかの選択肢を選べなかった。

 そういう話だったらしい。


「桜守さん、でしたね。こちらを」


 アリスの説得に観念したように、下級生の母親が呪具を差し出した。

 年老いたようにくたびれた様子の表情には、安堵したように暖かな顔色がうかがえた。


「よろしく、お願いいたします」


  ◇  ◇  ◇


 卯月アリスが配信セットを準備して、呪具を背景にカメラ映りを確認している。


「それじゃ、桜守さくらもりくん、配信始めるよ」


 メインチャンネルの方が配信予定を立てているのに対し、サブチャンネルである呪術配信は比較的ゲリラだ。

 俺の怪幻討伐先がどこになるかが当日決まるせいで、移動時間を計算できないってのが大きな理由である。


 それでも毎回来てくれてる人が多く、ありがたい話である。


「みんなー、卯月アリスのお茶会にようこそー!」


 本日の配信は伊勢市朝熊町の日本家屋から。

 畳や木製のタンスが目を引く和室を、アリスのカメラが映している。


・アリスちゃんこんにちわー

・来たよー

・妙だな……メンバーシップ登録できないぞ

・収益化マダー?

・呪術の専門家から呪術のいろはを教えてもらえるってマ!?

・わくわく


「呪術師の桜守さくらもり惣司そうじさんに密着する専門配信も今回で第三回! ヨッ!」

「呪術師の桜守です」


・第三回キチャー

・呪術師:怪幻という怪異から日本を守ってる超人

・毎回驚かせてくれるから飽きないわwww

・今回はどんなことしでかしてくれるんだろ!

・和室?


「今日は視聴者さんからのお悩み相談を受けて呪具のお祓いに来たよ! 桜守くん、呪具って何なの?」

「呪われた道具の総称だ。細分化するといろいろあるが、今回のは陰気を吸い取って、怪幻の封印を解こうとする代物だな」

「放っておくと危険な怪物が飛び出てきちゃうってことだね!」


 封印については廃工場のときに説明した通り。

 はらい札が効かないくらい強力な怪幻に対し、祓えないなら投獄してしまえの精神で生み出された器具である。


 アリスがお札でぐるぐるにされた小道具をカメラで映し出す。


「話を聞いたときは再封印を考えていたんですけど、かなりの陰気に犯されて、封印器具の寿命が怪しいです」

「それはつまり?」

「呪具に封印されている怪幻を討伐しようと思います」


・怪幻戦キター!

・あの超人バトルがまた見えるのか

・胸熱ッ

・お前らスルーしてるけど封印される怪幻って祓い札が効かない相手だからなwww

・他の呪術師が匙を投げた怪物相手に微塵も臆さない化けも……じゃなくて傑物

・なお匿名呪術機関の中で桜守さんは末端構成員の模様

・どうなってんだよwww


 アリスに教えてもらって、俺もコメントを見えるようになった。

 なので勘違いについては正していこうと思う。


「いや、呪術の心得が無い人には討伐より封印の方が簡単って思えるかもしれないけど、封印も、よっぽど高価な器具を用意しない限り、怪幻を相当弱らせないといけないんです」


・ほう

・ん?

・よっぽど高価な器具を用意すればよいだけでは?

・なんで桜守さん毎回そういう扱いなんだよwww

・呪術機関はきちんと支給しろwww


 それは俺も思う。

 けど、封印器具を使えたとして、大事な場面では頼らないだろうなとも思う。


「高価な封印器具なんて使ったことが無いんで、なんか緊張して失敗する予感がするんですよ。だから拳で殴り飛ばします」


・草ァ

・なんでこの落ち着いた感じの雰囲気から脳筋みたいな台詞が出てくるんだろ……


 結局最後に頼れるのは自分の腕っぷしですよ。


「今日の段取りです。封印器具の内側に広がっているであろう領域に侵入する。領域の主を討伐して帰還する。お札にたまった陰気を浄化して破棄する」


・料理番組始まった


 調理手順じゃないからな?

 と否定の念押しをしながら、本業に取り掛かろうとしてアリスに待ったをかけられた。


「待って桜守くん! 本編が始まる前にやりたいことあるの」


 本編って言うな。

 コミカルな感じになるだろ。


「それじゃあ今日も! レッツ、呪術配信! ……どうどう!?」

「そのアイキャッチは流行らないし流行らせない」

「えー!? どうして!?」


 コミカルな感じになるだろ。

 呪術師遊びじゃねえから。

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