第12話 呪術配信#2|頼れるパートナー! 式神作成!

「みんなー、卯月アリスのお茶会にようこそー!」


 桜守惣司と卯月アリスがどこかの部屋で、カーテンを背中にして並んでいる。

 その様子を、定点カメラがネットに配信している。


・アリスちゃんこんにちわー

・来たよー

・妙だな……スパチャを投げられないぞ

・収益化マダー?

・呪術の専門家から呪術のいろはを教えてもらえるってマ!?

・わくわく


「このチャンネルは呪術師の桜守さくらもり惣司そうじさんに呪術の専門的な話を聞く配信だよ! 本日は第二回! ヨッ!」

「呪術師の桜守です」

「桜守くんには二日前に二回、化け物から助けてもらってるの! 桜守くん、今日はどんな話をしてくれるの?」


・第二回キチャー

・待ってました俺の唯一の楽しみ!

・唯一の楽しみって言ってるやつダクファンMMOの配信者にも毎回言ってただろwww

・唯一の概念が崩れる

・これもすべて怪幻ってやつの仕業なんだ

・なんだって! それは本当かい!?


「俺は戦闘系の呪術師だから今日も怪幻の討伐、と行きたいところだけど、前回の戦闘で損耗した呪力が回復していないので、今日はこっちやります」


 桜守が持参したバッグから和紙を取り出す。


「あ! これあれだよね! アタシを下山させてくれた犬さんの時に使った紙!」


 卯月アリスは伊勢山奥の廃村配信を行った際に、惣司によって強制的に下山させられた。

 そのときに使われたのが「送狗おくりく」と呼ばれる、白い狛犬のような生物らしき何かだ。

 呪術によって命を吹き込まれた状態では動く狛犬のような挙動をするが、呪力が切れた状態ではただの型紙だ。


 アリスはそれをお守りのように肌身離さず大事に持ち歩いている。


「それです。俺たちは式神って呼んでます」


・やっぱり式神だったんだ!

・特別な和紙だったりするのかな?

・トイレ行かない食費かからない理想のペット!

・呪力消費するんじゃね……?


「桜守くん、和紙って特別製なの? ってコメントあるけどそこのところどうなの?」

「いや、文房具屋とか100均で買えるやつです。紙の方は」

「紙の方は?」

「水はちょっと特別です」


・ほう

・水?

・くわしく


 惣司がバッグからミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。


・市販のミネラルウォーターやないかい!

・俺これ使ってる


「京都伏見の天然水です。いろいろ試したんですけど、これが一番馴染みました」

「桜守くん、馴染むってのは和紙にってこと?」

「いや、俺の呪力に」


・呪力?

・あ、市販のミネラルウォーターとか言ってすみませんでした


「式神は和紙を切り抜いた物なんですけど、ただ切ってもただの紙です」

「うんうん」

「そこで、切り抜いた型紙に呪力で命令を埋め込みます」

「命令?」

「特定の目的地への最短経路を探す。障害物がある地点は避けて移動する。上に人を乗せて移動する。乗っている人に負担を掛けない。そういう方向性を与えるものだと考えてもらえれば」


・はえー

・なるほど

・そう言えば下山中かなりの速度だったのに画面あんまり揺れてなかったな


「術式――命令の記述は式神ごとに変えるけど、共通している部分は切り抜く前に埋め込んでしまいます」


 桜守が京都伏見の天然水のペットボトルの蓋を上から抑えつけると、黒い靄が容器内に発生する。

 その容器をシェイクすると、靄は水に溶けていつの間にか無色透明になっている。


「まず最初に記述するのは速乾の命令です。この後も術式を重ね書きしていくので最初に書いておきますが、呪力量に自信の無い方は自然乾燥を活用しながら作っていただいてもかまいません」


・一般家庭でも作れるような補足ありがたいw

・料理番組じゃないのよw

・ちょうど呪力切らしてたから助かるw

・あー呪力ねw

・使えねえよwww

・誰も活用できない有用情報www


 桜守は毛先の綺麗な筆を取り出すと、京都伏見の呪力混合水に付けて、複雑な軌跡を描いていく。

 最初ははっきりしていた水の跡が、忽然と蒸発する。


「はい。これで速乾性の和紙ができました。珪藻土入りマットの代わりにも使えます」

「突然のおばあちゃんの知恵袋的発言!?」

「続けて汚れ防止の術式を埋め込んでいきます」

「スルー!?」


・アリスちゃん(´;ω;`)

・速乾和紙うちにも欲しいー

・すげえな一瞬で乾いた

・うちの革靴にも速乾の術式書き込んでほしいw


「汚れ防止の術式を追加していきたいんですが、ここにこの呪力混合水で加筆すると速乾の術式と混ざってどちらも機能しなくなります」

「ふんふん。血で犯人の名前を残したら、あとから数画追加されて別人の名前にされちゃったみたいな?」

「物騒な人だなぁ」

「化け物と戦ってる人に物騒って言われた⁉」


・アリスちゃw

・桜守さん辛辣すぎる(´;ω;`)


「それで、二つ以上の術式を区別するために、呪力濃度を変えます」


 一度は口を開けたペットボトルに再び蓋をして、もう一度黒い靄を容器内に発生させる。

 同じようによく振って京都伏見の水に呪力をむらなく浸透させる。


「水墨画って、墨だけでも濃淡の違いが判るじゃないですか。あれと同じで、術式も濃度が違えばきちんと複数埋め込めるみたいです」


・はえー

・なるほど

・明日から使える豆知識助かる

・だから呪力を使えないんだってwww


 筆先でなぞった場所から水分が弾けていく和紙はどのような術式が描かれたのか視認できない。

 透明の線で絵を描いているようなものだ。

 一部の視聴者は自分の描いた線がわからないはずなのに迷いなく筆を走らせ続ける桜守の凄さに気付き始めている。


「他にも汎用的な術式はあるんですが、それはまた別の機会に。俺のおすすめは速乾と汚れ防止の二つですね」


・これ式神以外でも普通に使いたい

・スプレーのノズルにどうにか刻めないかなw

・アリスちゃん物販してー


「桜守くん、スプレーのノズルにその術式埋め込めない? ってコメントがあるよ」

「なるほど? その発想は無かったです」

「おお!? できるの!?」

「その気になれば」


・マジで!?

・言い値で買います‼

・物販! 物販!

・俺たちは助かる、桜守さんは活動資金を巻き上げられる

・よし、Win-Winだな!


「はーい、物販はまた交渉しておくので、チャンネル登録と通知をONにして楽しみに待っててね!」


・はい!

・登録しました‼

・もうすでに通知ONです!

・アリスちゃんの交渉か……不安


「アタシの交渉が不安って失礼でしょ⁉ って桜守くん!? そのカッターどうしたの⁉」


 アリスがカメラとコメント欄を交互に見ていると、配信画面にカッターを持った桜守が映っていた。

 まさか刺されるかと思ったアリスがぷるぷるとスライムのように身を震わせる。


「いや、切り抜くかなって」

「き、切り抜く!?」

「和紙を」

「あ、ああ。和紙ね、アハハ」


・切り抜きました

・交渉失敗を予感して震えるスライムアリスちゃ

・アリスちゃんカワ


「一般的に式神は雛形があるんですけど、俺は形に自由が利くフリーハンドが好みです」


 カッターマットも取り出し、和紙をカッターでざくざくと切り抜いていく。


・おお、犬だ!

・なんかまるっこくてかわいい

・よしフリーハンドだな!

・フリーハンド……フリーハンド?

・精密機械かってくらい綺麗に切り抜いてて草

・筆走らせてる時から分かってたけど器用だなぁ


 目にも止まらぬ速さで刃先が踊ると、ずんぐりした犬を想起させる型紙が切り抜かれる。


「ここに術式を加筆していきます」

「はい! 桜守くん! アタシが持ってるやつと比べてふくよかなのはどうして?」

「こいつは防御重視にさせる予定だから、面積が大きい方が都合がいいかなと思って」


 アリスが持っている式神は山を下るときに使った痩躯の狼――「送狗おくりく」だ。

 それに対して廃工場の領域で人型の怪幻から身を守ったのは「護狗まもりく」。


 あの式神はアリスを守ってばらばらになってしまった。

 今回の式神作成配信はそれの補填という意図もあった。


「まず一つ目の術式は待機モード。これは呪力を込めた後も紙の形態を保つことで呪力の消費を抑える術式です」

「え? それって意味あるの?」

「二つ目に活性化条件を埋め込むことで、必要な時だけ自律判断でいぬの形態に変形するようにします。活性条件は所有者が怪我の危険にさらされたときで」

「なるほど! 家電も電源を入れたときは稼働して、それ以外は待機電源を使ってるっていうし、それのことだね?」

「そうだけど……わかりづらい」

「ごめんね!?」


・アリスちゃんwww

・俺はわかったよ!

・ドユコト

・必要な時以外は紙に戻って危ない時に守ってくれるよってことかな?


「三つ目に、呪力の貯蓄を刻みます」

「呪力の貯蓄?」

「ソーラーバッテリーみたいなものだと思ってもらえれば」

「なるほど」


・わかりやすい!

・アリスちゃんの待機電力の説明がわかりづらかったんやなって

・わかりやすくて草


 アリスが視聴者によるいじりにぷりぷり怒るリアクションを取ってる間に、惣司は呪力濃度を変えながら型紙に術式を埋め込んでいく。


「以上で式神護狗まもりくは完成です。最後に呪力を流して起動します」


 和紙に青白い光が灯るとぶくぶくと膨れ上がり、むっちりした肉感のふくよかな白い犬が現れる。

 しかしすぐに型紙の形に戻ってしまう。


 惣司は紙に戻ったそれを拾い上げるとアリスに手渡した。


「え? アタシに?」

「最初も言いましたけど、俺は怪幻との戦闘がメインの呪術師です。ついてくるなら危険が伴うので持っておいてください」

「お、おお!? みんな見て! プレゼント! 桜守さんからプレゼントもらっちゃった! これはもうカップルと言っても過言では無いのでは?」

「過言だよ」


・過言です

・※過言

・過言なんだよなぁ

・全員から否定されてて草

・過言

・どうかんがえても過言


「なんでぇ!?」


 呪術配信第二回も好評でした。

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