第129話

 



 俺が横一線に振った木刀は空を切った。

 相手は少し下がり、紙一重で俺の剣を躱している。


 軸足を狙った攻撃も、そこからの鋭い連続突きも、全て紙一重で躱されてしまった。紙一重だが、余裕のある動作だった。


 俺は配下の能力継承可能枠に【剣術スキル】をセットしており、補正が掛かっている状態だが、それでも相手にならなかった……。


 今までのレベルによるゴリ押しだと駄目だという事だ。まだまだスキルを取得して間もない日本人には通用するかも知れないが、これでは異世界のベテラン冒険者にかなわないだろう…。


 以前から剣術スキルをセットして訓練を行っていたので、最近では、剣術スキルの動作を真似る様に意識して自分の意思で大分動ける様になってきたと思う。


 そろそろ、のも良いかも知れない。



 配下の能力継承可能枠に【全魔法】をセットする。




 無属性といわれる、身体強化魔法を掛ける。全身を強化する様に、瞬発力が上がり、攻撃力が高くなり、筋肉の鎧で打撃を弾く様なイメージを持つ。


 これは、大分出来る様になってきた。最初は全然上手く行かなかったが、より早く、より力強くはなってきた。防御力を上げるのは、中々苦戦している。


 ジーニャから魔法を上達するのに大切な事は、だと以前言われた。『魔法が上達する為には、何事もイメージが大事なのじゃ。どういった魔法を使いたいのか、原理原則まで考えると成功確率や威力にも影響がでるのじゃ。』


 ファイアボールなどを使った時は、無意識だったが、既にゲームなどでイメージが固まっていたので簡単に発動した様だ。


 俺が今からやりたい事は、ぶっつけ本番だがどうなるか……。


 少しの沈黙が開けた後、相手をしていた剣王ムサシは木刀を構えた。






 先程より鋭い踏み込みで剣王ムサシへ迫ると、先程と同じく横一線に剣を振った。剣は先程の方が鋭かったが、剣速は今回の方が多少早いが、しかし、ムサシにとってはまだまだ温い攻撃である。先程同様に紙一重で躱されてしまった。


 しかし、次の瞬間。


 俺の体は、予備動作が無い状態で急にムサシの方へ迫った。そして、横一線の剣の返しの一撃がムサシを捉える。ムサシは俺のにちょっと驚くが、驚異的な身体能力で、更に後ろへ下がり俺の攻撃を躱した。


 続いて上下への連続攻撃をムサシは、綺麗に紙一重で躱していく。そこへまた体の予備動作が無い状態で、ムサシへ接近した突きを放つと、ムサシは木刀で俺の突きを受けて軽く反撃してくる。


 ムサシの攻撃をどうにか木刀で受けつつ、離れるように緊急脱出を図る。


『風魔法ですか…考えましたな。』


「……正解だが、あれだけの手合わせで良くわかったな。」


『あの異様な動きはスキルか魔法の類しか考えらなかったので。それにしても少し翻弄されました……いや、かなり厄介でした、よく考え付きましたな。あの動きをもっと極めれば、相手は相当厄介だと思いますぞ。』


 まさかムサシからそこまでの褒め言葉を貰えるとは思わなかった。俺は風魔法を使って移動したのだ。手から出す魔法ではなく、体の表面から出す事によって、急激な移動をしていたのだ。要は、体に小型のロケットエンジンを取り付けて移動しているイメージだ。


「ムサシがそこまで言ってくれるとなると、これからもこの風魔法を訓練する必要がありそうだな。」


『初見であれば、達人で無い限り中々見切れないでしょう……。後は、まだまだ剣の鍛錬が足りませんので、これから朝晩と打ち込み500本ずつは行いましょう!!儂が、冬夜様の事を鍛えて差し上げますぞ。ワッハハ。』



 それから、ずっとムサシの特訓が続いて行くことになったのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る