6章 ダンジョンマスター (仮)

第128話 ※三人称視点



 <三人称視点>


 地球が異世界と繋がる十数年前の異世界の話。



 ザードと呼ばれる12歳の少年が、決して裕福では無いが、それでも父・母・姉の家族4人で幸せに過ごしていた。


 平民のしかも下の上の生活をしている家庭なので、学園になど入学できるはずなかったが、ザードは最低限の読み書きと計算を姉に教えてもらっていた。そして、ザードは大好きな家族のために小銭を稼ぎに何でも屋として、日々働いていた。


 ドブ掃除、屋根の修理、庭掃除、配達、荷物持ち、害虫駆除、山菜採取など……出来ることは家族のために何でもやった。


 甘いお菓子や豪華な料理などは、誕生日や特定の日にしか食べられなかった。ましてや、プレゼントや玩具も貰うのは極稀だが、それでも彼は幸せだった。



 ――――――――――



 そんなある日、ザードは何でも屋の「家の修理」の仕事が長引いてしまい、晩方になるまで仕事が終わらなかった。


 ザードは疲れて家に着くと、戸が少し開いていること、また、日が落ちかけているのに部屋の中が暗いままのことを不思議に思った……。恐る恐る、家に入ると目を疑う出来事が起こっていた。


 明かりを付けると、家の中は荒らさて、父は無惨にも両腕を切り落とされて、殺されていた……。


 そして、部屋の奥には母と姉が蹂躙された後、殺されているようだった……。


 ザードはその後の記憶が曖昧だった。何をしていたのか分からないが、気がついた時にはスラムのボロい空き家で寝ていた……。



 それから、ザードが、ザードでいる間の3年間……15歳になるまで、家族のかたきを討つ事を目的に必死になってスラム内で生き抜いた。


 彼は生きるために殺し以外の事は殆どやった。騙し、窃盗、恐喝、暴力など、少年が何の後ろ盾も無く生きて行くには、必要なことだった。


 そして、15歳の夏。


 偶然にも、自分の家族のかたきを見つけ出したのだ。それは、本当にたまたまだった。


 ソイツら3人組は、路地裏の路上で、酒を飲みつつ仲間内で口論になっていた。最初、面倒事に巻き込まれる前に立ち去ろうと足早に隣を通り過ぎた時………母と姉の名前を出して暴行した時の話をしていたのだ……。すぐにその話はしなくなったが、たしかに母と姉の名前だった。


 ザードは冷静さより怒りが勝り、思考能力が低下して、そこら辺に落ちている角材を無意識に手に取り………、そのままその3人組に向かって走っていった。



 思いっきり、フルスイングした角材が1人の男の側頭部を直撃して、鈍い音を立てると共に鮮血が飛ぶ。


 ザードは転がっている男の頭を踏みつけて追い打ちを掛け何度も転がる男の頭を角材で叩くのだった。残りの2人は、急な出来事に一瞬呆けていたが、すぐに起き上がり「このガキー何しやがる!!」ザード目掛けて飛びかかって来た。


 ザードは1人の男に対して角材を使ってカウンターで鳩尾を突くが、男の勢いを止められ切れず、覆いかぶさられて押え込まれてしまった。


 残りの1人はザードの後ろから背中や脇腹を思いっ切り拳で叩くや蹴りを入れる。


 そこから、ザードは意識が飛ぶまで、2人から殴られ、蹴られ続けた、次に目を覚ました時には、足は動かず痛みの感覚もなかった……。


 ザードは生きているのもやっとの状態で、森の中を引きづられていた。


「――――――――。」

「―――――――。」

「―――――――。」


 男たちが何か話しているようだが、耳も聞こえていなかった。


 そうして、ザードは胸ぐらを掴まれて男達からもう一度顔面を殴られた……。ただ、ザードはもう痛みを感じなかった。


「――――――――。」

「―――――――。」

「――――――――。」


 そして、男たちは笑って何か言っているようだったが、ザードは何も聞こえ無いまま、森中に出来た小さな深い穴に投げ込まれた。


 それから暫くして、彼の命の灯が消えた時………その時、ザードは奇妙な声を聞いたのだった。


『貴方は、このダンジョンに最初に吸収されました。貴方は、ダンジョンマスターとして生まれ変わります。…………第二の人生を自分の思うままに生きて下さい。』



 その日、新たに生まれたダンジョンマスターは、自分を「ザード」と名乗った。何となく、「ザード」という言葉が頭に浮かんだのだった。


 彼は昔の記憶を持っていなかった。


 ただ、人間に対する酷い憎しみだけが、彼の中には残っていた………。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



新章に入って早々ですが、7月末日頃まで不定期更新とさせていただきます。


殆ど更新しないと思って下さい。


また、8月初旬からは更新を再開する予定ですので、良ければ目を通して下さい。


よろしくお願いします。

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