第99話


 俺の肩には中古の収納魔道具が掛けられている。お値段は三千万円だったが、今後それ以上の活躍をしてくれるだろう。


「秋実さん、このバック思い切って買ってしまったけど良かったかな?」


「う〜ん、大丈夫だと思うよ。どの道必要な物だし、拠点のあるじが決断したんだから問題無いよ!」


「いやいや、拠点の主って…。」


「そう思って無いの?あの拠点は間違い無く、冬夜さんが立ち上げて、冬夜さんのスキルで成り立ってるよ!

 確かに皆が協力しているから日々の生活が改善されているけど、冬夜さんのお陰だよ。少なくとも私はそう思っているし、最初から冬夜さんについて来て良かったと思ってる。」


 そう言って、秋実さんは魔道具店を出た後からずっと俺と握っている手の力を少し強めた。


「ありがとう。」


 拠点の皆に収納魔道具を買うと伝えているので、問題は無いと思っているが、高額だった為に俺はちょっと不安になっていた。


 俺達はその後少し遅いランチを済ませて、回っていない露店を見てから宿に戻った。



 ・・・・・・・



 それから、週に一度は2泊3日の異世界商談ツアーを決行している。


 毎回秋実さんが連いて来る訳ではなく、夏が連いて来たり異世界を体験したいメンバーを順繰り連れて回る感じになった。


 そして、慣れて来たガマズミ町の魔道具店を訪れた時の事。


 俺達以外の日本人の女性が先客でいた。


「収納魔道具って、そんなにするの?手持ちが無いから、金貨1枚にならない?中古で見た目は結構ボロボロ。」


 低いトーンで淡々と話をしている。


「お姉さん、収納魔道具は小容量ポーチでも金貨10枚はするんだよ!金貨1枚になるはずないでしょ。大体そんな金額だとそこの開発品類(用途不明品)か、通信用魔道具2セット(4台)くらいしか買えないよ!」


「……だったら、この通信用魔道具を金貨1枚で3セットにならない?それなら買う。」


「それだとおっちゃんの方が大赤字だよ。まあ、金貨2枚出せるなら、通信用魔道具を5セット(10台)売っても良いけど……どうする?」


「………無理。じゃあ諦める。」


 断るのも淡々としていた。

 が、その美味しそうな話に俺が食い付いて割って入った。


「なあ、俺が金貨1枚出すから、2人で通信用魔道具を5セット買わないか?」


「うん?あなた誰?日本人っぽいけど。」


「美味しい話だったので、急に話に割って入って悪い。俺は海堂冬夜。千葉に住んでる日本人だ。」


「そっか、私は東松野春香(ひがしまつのはるか)。秋田に住んでる。」


 テンションが低いまま、東松野さんも言葉を返してくれる。


「それで、魔道具の件はどうする?話を進めて良いのか?」


「私は通信用魔道具を金貨1枚で5台買えるならそれで良い。」


「という事だけど、おっちゃんそれでも良いだろ?」


「う〜ん。まあ、もう言っちまったもんは取り消せ無いな。分かったそれで売った!」


 東松野さんがちょっとニヤついた様に思えた。まさか、本当の狙いは通信用魔道具だったのだろうか…。


 俺達は互いに金貨1枚を出して、各々通信用魔道具を5台購入する事が出来た。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆

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