第98話
商業ギルドを後にした俺達は、そのまま魔道具店へ向かった。普通の店舗も確認しておきたかったのだ。
異世界の町中は、平和であり、高層階マンションやビル群が無く、映画に出て来る様な中世ヨーロッパ風の建物が並んでいる。
そんな中を秋実さんと2人で歩っている。
拠点での限られた範囲での生活から解放されて少し息抜きが出来そうだ。
暫くすると露店や屋台が立ち並ぶエリアに入った。なんでも、今日は1週間の中でも一番混む日(曜日?)らしい。(異世界でも1週間は7日間だった。)
想像した以上に人がいる。
俺なら不測の事態に陥っても対処出来るが、ヒーラーの秋実さんはまだまだレベルが低い。はぐれてしまって何かトラブルに巻き込まれてからでは遅い。
思い切って、秋実さんの手を握る。温かく柔らかい感触が手に返ってくる。
「ちょっとこの状況じゃ、はぐれたら大変だから……。」
「……うん、ありがとう。」
2人共、初々しい反応だった。これまで仕事上の関係で一定の距離感を保っているのが長かったので、距離の詰め方がイマイチ分からなかった。ちょっと強引だったかも知れないが、このくらいの方が良かったのかも知れない。
それから、俺達は手を繋いでいる事以外、普段通りに話せる様にまで慣れて、屋台へ寄ったり、出店でアクセサリーを見たりするなどして楽しんだ。一度離した手も自然と繋ぐ様になっていた。
それとお目当ての魔道具店にも立ち寄った。
店内は電気量販店を縮小した様なイメージだ。商業ギルドではお目に掛かれなかった微妙な商品なども販売されている。
・風が発生する杖
・熱を発する板
・回転する台
・単音が鳴る箱
・重さを微軽量する紐
などなど、どういう用途か分からない物が多数あった。
こういった発明品の用途は、客自身が見つける必要があるらしい。
それなのに、開発費、製作費、材料費などが高いため高額商品であり中々売れないらしい。用途を示さずに販売するなんて、本当に売る気があるのか不明である。
まあ、こんな事をボヤいてもどうにもならないが…。
「ちょっと用途が分からない物が多い気がするが、結構いろいろな魔道具が販売されてるな。」
「うん、そうだよね。これは磁石みたいに反発し合うようだけど、くっ付かないし何に使えるのだろう…。」
「こっちは、逆に色んな場所にくっ付く魔道具だよ。仕組みは不明だがこの壁にもくっ付く。」
「なんか雑貨屋さんに居るみたいで結構楽しいね!」
「確かに日本だとこんな事出来なかったので、何だかんだで楽しな。」
普通の店舗に来てみて正解だった。
と言うのも……
「おじさん、中古の収納魔道具ってあるの?」
カウンターにいる店員に声を掛ける。
「中古の収納魔道具ならいくつかあるぞ。どのくらいの容量で予算はいくらだ?」
「容量は多いに越した事はない。予算は…決まってないが値段次第で考えるよ。」
「分かった、ちょっと待ってな。」
そう言うとおじさんは店の裏手に入って行った。暫くすると3つのバック、ポーチを持って現れた。
「これが中古の収納魔道具だ。使い込まれて年季が入っているがちゃんと使えるぞ。
容量は大中小で変わってくる。ポーチが小容量で8m3(縦2m×横2m×高2m)ほど、このバックが中容量で27m3、大容量が125m3ほどだな。
値段は小容量ポーチが金貨10枚(一千万円)、中容量バックが金貨30枚、大容量バックが金貨100枚だ。新品だとこの倍はするな。
それ以外に特大容量があるが、容量はその収納魔道具次第で、容量によって値段が変わるからこの店には置いてない。この町だと商業ギルドしか置いて無いと思うぞ。
それで、どうする?この辺りの魔道具では此処が一番安いぞ!」
妥当な価格設定だと思う。
商業ギルドで見せて貰った金額の半分程度なので、このおじさんが言っていることは正しい。
かなり大きな出費であるが、今回も魔石を売って何とか購入が可能な金額を得ていたので、一つの目的である中容量のバックを思い切って購入する事にした。
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