第96話



 目の前には、数種類の料理が並んでいる。


 ただ、トマスさんの表情は明るい様に見えなかった。この手の試食会は、通例の事なのだろうし、あまり期待もしていない感じだ。


 まずは、野菜本来の味を確認して貰うためにキャベツはカットした物を出し、タマネギとジャガイモは蒸した物を出した。

 一応お好みで付ける調味料として、塩と味噌を用意してある。


 これらの野菜は、俺のマイスペースで設置した畑で金安君が育てたスペシャル品だ!聖域都市パラディスから追加で注文依頼が来るが、出荷数は増やしていない。逆に減らす方向で調整しているくらいだ。俺達自身で食べるのと異世界への出荷も検討していたからだった。


 そして、今回の出荷に繋がった。



 トマスさんは徐ろに小さな小瓶をポケットから取り出し、キャベツ、タマネギ、ジャガイモを一切れ皿に移すとそれらへ小瓶の中身を掛けた。


「すみません。監査規定で決まってまして、試食の前に身体的に害が有る物かどうか確認させて頂きました。この小瓶に入っている液体を掛けて、色の変化により有毒性を確認します。変化がありませんでしたので、これらの品物は問題ございません。」


 そう言うとトマスさんがジャガイモを手に取って口に入れた。


「………っ!!味が濃くて、甘味が強い。最近、出回っていた幻の日本野菜みたいだ!」


 次にタマネギ、そしてキャベツと手を進める。


「お味はどうですか?」


「凄く美味しいです。これは何処で仕入れたのですか!?」


 かなり食い気味にトマスさんから質問が飛んで来た。これは釣れたな!


「仕入れ先は企業秘密ですが、定期的に提供する事は可能ですよ。」


「これを定期的に卸して下さるのですか?」


 俺は軽く頷いた。


「ただし、スペシャル品なので値段次第となってしまいます……。」


 トマスさんは色々と考え込んでいる様だ。そしておもむろに指を3本立てた。


「……通常価格の3倍って事ですか?それだったら、全然話になら――――。」


 トマスさんが俺の話を遮って話した。


「違います!通常品のでどうでしょうか!それだけの価値がありますし、貴族や高級料理店をターゲットに販売を進めれば、十分利益は出せると思います。」


 俺は頑張って交渉して5倍以上になれば良いと考えてたので、思った以上の提示価格に驚いた。(聖域都市パラディスに対しては、通常価格の5倍で販売していた。)


 そして、トドメに秋実さんが持参した料理を提供し始めた。


「それぞれの野菜に合った料理法で調理してますので、良かったらこちらも召し上がって下さい。

 これは肉じゃがとじゃがバターという料理です。こっちはロールキャベツ、豚キャベツ炒めです。タマネギは肉じゃがや豚キャベツ炒めに入っていますので色々食べて下さい。」


「美味しすぎます……!」


 美味しそうな匂いに釣られて、受付嬢のレキーナさんがお茶のお代わりを持って来るのを口実に部屋に入って来た。


「レキーナさんも良かったら召し上がって下さい。」


 と秋実さんが言うと、レキーナさんは料理に手を伸ばして、その後無心で食べ始めた。

 評価結果を聞かずとも、彼女のその姿を見ただけで答えは容易に想像できた。



 この料理の効果があり、野菜は通常品の32倍の価格で引き取って貰える事になった。


 そして、このタイミングで独占販売の話を持ち掛けられたがそれは断った。

 そらは今後この野菜の価値がどうなるか分からない最中で、足枷を付けたくなかった。



 そして、次の相談を始めたのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆


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