第72話


 運搬屋の2人の可怪しな点は、生活面である。


 俺は決して安くない運搬対価(魔石)を彼等から紹介された仲介業者へ払っているが、この2人組の生活は全く改善されていないのだ。


 夢があって貯金をしているなどなら分かるが、それにしても節約し過ぎだと思っていた。しかし、他人に対して余り稼ぎの事を突っ込んで聞くのは良くないので俺は中々躊躇して聞けないでいた。


「そう言えば、2人はへの運搬業務も請け負っているのですよね?やっぱり、仕事は相当大変なんですか?」


「あ〜〜異世界の事ですね。アッチ世界への運搬の仕事は、金が良いけど強いモンスターと遭遇する可能性があるので大変ですね。自分達もまだ数回しか同行してないですが、前回かなり危険な目に会ったのでそれ以降敬遠してます。」


 おお、やっぱりこの2人は異世界の町へも行っているのか!!


「異世界には人間以外に獣人やエルフ、ドワーフなども居るんですか?あと、生活環境とかどんな感じなんですか?やっぱり、小説みたいに発展途上なんですか?」


 俺は興奮して結構食い気味に質問してしまった。


「っふふ。海堂さんもそっち系なんっすね。僕も最初はすっごく期待していたんっすが、僕達が訪れた町は基本的に人間しか生活していない中規模な町っす。人口はたしか2千人弱程度だったはずっす。」


「他の国や町に行けば獣人やエルフ、ドワーフなども居るみたいですが、自分達はまだ見ていないです。もっと稼ぎに余裕が出てくれば、是非いろんな世界を見てみたいと思ってます。」


「そうっす。僕達もそっち系なので、お金に余裕が出てきたら異世界も色々とまわってみたいっすね。」


「ここ連続で俺達の運搬業務を引き受けてくれてますし、2人は結構稼いでるんじゃないですか?あの額(魔石)でも足りないのであれば、借金とかあるんですか?」


「っぇえ?僕達は借金とかは無いですよ。強いて言えば、パラディスの第四層を抜け出して、第三層で生活したいと思ってます。」


 よく聞くと、俺が仲介業者へ渡していた魔石の1割以下しか彼等は対価を貰っていないことが判明した……。仲介業者が少しマージンを取るのは仕方ないが、9割以上の手数料を取るのは、明らかに可怪しい。


「そんな、状況だったんすね……。最初の出会いは、賭博でちょっとスッてしまった俺達をあの仲介業者の人達が助けてくれたんす。それから、仕事も紹介しくれて今の運搬業をやるようになったんす。」


「う〜〜〜〜ん。そもそも、その賭博から怪しいですね。仲介業者は2人に仕事の紹介をする際に、既に新谷さんが収納スキルを持っていることを知っていたんですよね? それって、そもそも可怪しくないですか?

 2人は気が動転していて気付かなかったかも知れませんが、スキルの情報を話して無いのに仲介業者が知っていたってことは………初めから2人を狙っていたのかも知れませんよ。」


「………確かに都合よく彼等が現れたっすね。それに話を収めてくれましたが、あっさりと収まったと言うか何と言うか、思い返すと不自然だったかも知れないっす。」


「そうですね。怪しいと感じる所は多々ありましたが、僕達は仲介業者の彼等に対して助けてくれた恩義を感じていたので、すんなりと信用してしまいました……。パラディスの第四層では、皆貧しいのでその報酬が当たり前と考えてました。しかし、第三層などと比較して運搬業の相場を調べて見れば良かったです。」


「そういった奴らのことなので、2人が他所で働こうとしたら、裏でいろいろと邪魔をして来ていたかも知れませんね。」


「そうなると、僕達がこの事実を知ってしまったのをまだ奴らに明かさない方が良さそうっすね。何も準備をしていない状況で動くのは危ないっす。」


「自分もそう思います。まず、どうするか自分達の方針を決めて、それを達成するための手段を考えて行きましょう。」


 切り替えは早い2人のようだな。


「もし、何かあれば俺も出来る限りは強力しますよ。例えば、資金面での相談なら、俺達数人を異世界への運搬業に護衛として同行させてくれれば、仲介業者へ渡している額の3倍は出しますよ!」


「「ええーー、3倍ですか!!」」「ってことは、仲介業者を通さないので30倍以上の額が手に入るんですか……。」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆ 




拠点の施設配置図イメージ(58話頃)を「近況ノート」に載せました。

興味あれば、確認下さい。


https://kakuyomu.jp/users/gannta342/news/16817330657599397897

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