第12話 FIRE

 エギラは自分が家に火をつけたことを理解していた。


 火はこの頃の人類にとっては慣れた道具だが、一方で水か風で消えるということ以外はなにもわかっていない現象でもあった。それは知恵として、五歳のエギラにも伝わっている。エギラは自分が遊んでいたせいで家に火がついたことを理解していた。


 数時間で火は消え、多少周りの草が燃える程度で収まった。

 するとえた匂いの中、エギラとクババにまた話題が向く。


「エギラなの?」

 ライースは頑なにエギラを問い詰める。

 エギラはうんと頷いて、そのままうつむく。

 ライースが確認するようにクババをみるから、クババはたまらず弁明した。

「たしかに、火をつけたのはエギラよ、でも聞いて。エギラは火打ち石で遊んでいたの。火打ち石を打って散るのなんてせいぜい火花くらい。エギラは火花が火の種だってことを知らなかったのよ」


 ライースはエギラを庇うクババにすこし怪訝そうな感情をあらわにしたが、すぐにそれを改めて

「そうなの……いいことエギラ。火打ち石で遊んでは駄目。火は危険なものなのよ」

 とエギラに知恵を授けた。

 クババは感心していた。クババはこの人たちに、術語の力で信仰心の種と知識の種を蒔いた。それはもう花開き、世代交代を行った。なんという成長速度だろうか。


「ありがとうね、ケルビム。あんたがいなきゃ、家は消し炭だよ。なんせこの家には使える男が少ないからね」

 タントもエメメももう高齢だ。ライースは夫を亡くしているから、この家には働き盛りの男はいない。

「いえいえ……それより、やっぱりエメメさんはお元気ですね」

「そんなことないよ。それよりケルビム、あんたどこの出身なんだいほんと。聞かない話し方だけど」

「おいおいエメメ、この二人は空から飛んできたんだぞ。出身地なんてきいても俺たちに分かるわけ無いだろ、ワッハッハ」

「そうね、ふふ。世の中わからないものだわ」 

 タントの言葉に、ライースが笑う。

 ケルビムの敬語は方言のたぐいと思われているのか。


 それにしたって問題は残っている。

 それは今夜寝る場所だ。


「うーん、他の家に転がり込むにしてもこの人数でしかも子どももいるとなるとねぇ……」

 エメメは寝床をあさる。このあたり家は多いが、二世帯で住むには手狭な家が多い。エメメは商いを成功させて大きい家を持つが、自分たちだけでぎゅうぎゅうな家もあるのだ。


「ではあそこなんか如何いかがです?」

 するとケルビムが家の裏手にある小高い丘を指した。そこは丘の上が少しくぼみになっていて、藁でも敷けば寝れそうだった。

「そうだね。そこにしよう」


 その丘は、星がよく見えた。

 クババはそこに術語を労働させて超特急で集めた藁を敷いていく。

「ほんとうに綺麗な魔力ねぇ。純度も高いし、何より目に見えるってのが不思議だ」

 エメメは祈祷師として術語に興味を持っていた。それならいつか人間にも魔力を与えてみようかな。


「ありがとう」

 さて寝れるとなったとき、エギラがクババとケルビムの服を掴んでそういった。

 突然なにごとかとおもったら、エギラは顔を上げて

「ぼくが火つけたのに、怒らないし、ここも見つけてくれたから」

 というではないか。

「いいよ〜ん!!」 

 クババはもう母性本能が爆発してしまって抱きしめる。ケルビムが後ろで戸惑っている気配がするが正直どうでもいいわ。


「いや、二人にはほんとうに助かってるよ」

「集落のみんなも、だんだんわかってきてくれてるわよ」

「まあとりあえず、クババとケルビムにお礼をして、わたしたちは寝ましょうね」


 するとエメメたちはクババとケルビムに向かって礼の儀式で使う唄を捧げた。


「おばあちゃん、なにいまの」

「知らないよ。ただ、なんとなく頭に浮かんだのさ」

 子どもたちの問いに、エメメが頬を緩める。


「この二人は、なんだか信じたい」

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