第9話 キューブ
「こんなもんね」
「きっつ……」
「は?」
「すんませ」
クババはいつか地球に行ったときにも使った四角い飛行機械の外観細工を終えた。
正面から時計回りに、なけなしの画力で描いたクババの一生。無の空間、生まれた世界、育つ世界。その中心に、孤独な女王。クババの思う世界を描いた。
「それじゃぁ、いってくるわね」
クババは、九臣と研究員が見守るなか、その飛行機械……キューブに乗り込んだ。
船内は広く、二つの部屋と風呂トイレが備えられている。操縦はマニュアル通りで良いらしかった。だから簡単に……
「……動かないわね」
クババはあれこれ資料をめくりだす。
「クババ様」
「え?」
「それはブレーキでございます」
「……そういうことは早めに言ってよね」
クババは操縦をケルビムに任せる決意を固めた。
宇宙空間というのは空気がない。だから抵抗がとにかくなく、急げば地球まで一〇数分というところ。一刻も早く着いて地球で踊り狂いたいところだが、クババにはその前に訪れるべき場所があった。
ケルビムはセラフィムに渡された地図を広げ、方角と距離を計算する。
「地球に行くより遠いですが……」
「大丈夫。行くわよ」
ケルビムは操縦をしながら、外を見渡す。
宇宙は未だ膨張を続けていた。その膨張が時間を生み、エネルギーを生む。創った本人でさえわからない世界。結局、奇跡の中で生き物はおそろしく無力なのだろう。
向こうから光が近づいてくる。今からクババ女王が向かいたいという、ボイドである。
「光ってなんなんでしょうね」
その時、クババ女王がぼそっとつぶやいた。
「さぁ……」
「だってこの世界を構成するのは全て何かしら形ある分子でしょ?光の分子があるなら、発光の仕組みもそれなんでしょうけど……うまく説明できないけど、光の正体っておかしくはない?」
クババはケルビムの反応なんてまるでどうでもいいといったように話し続ける。
そのうちに、ボイドにコピーした世界に到着した。
「女王様!!」
勿論なんの連絡もなく訪れた女王に、市民は驚いた。
だがしかし、それよりも先に安堵を面にする者が多い。
「こんなにすぐに行くとは思わなかったわよ?!でも思いの外セラフィム頑張ってくれたからさぁ」
クババは表裏が心配になるくらい無い。まるで友達かのように、自らの立場を忘れて接する姿こそが彼女のカリスマ性を確たるものにしているが、そのせいで職務を放棄するのはやめていただきたい。
「女王様、この子……」
すると、群衆からひとりの女性が前に出た。幼い男の子を連れている。
その子は、出発前にクババが術語の魔力を授けた子どもだった。
「じょおーさま!」
ここいらでは珍しい、綺麗な茶色い瞳の男の子だった。
明るい髪や瞳の色が多いこの世界では、土と同じ茶色い色素を持つこどもは豊穣のきっかけとして喜ばれる。彼はクババの力を授かってから、少しずつその色の力を発揮しだしたらしい。
よく見ると、向かいの道沿いにある菜園にはみごとな野菜が実っていた。
クババはやっぱり、ここを誇りには思えなかった。だからこそ、ここですらのびのび自分の力で生き抜ける子どもたちを尊敬する。本当にすごいと思う。
だからそこ尊敬に値する努力を、自分もしようと思った。
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