第8話 志

「第二一回目、九臣美貌ランキングコンテスト、かいま〜く!!」

 クババがこちらの世界に残るのもあと少しとなった夜。毎年恒例の祭りが開かれ、街はかつての活気を取り戻していた。

 現在堕天使戦争は少し落ち着いている。なんでもクロノスが植物の遺伝子を使った新武器の開発に失敗したとか。

 

 九臣美貌ランキングコンテストとは、美の女神ビーナスに”ガニュメデス”という美少年が美しさを競い挑んで始まった一大イベント。

 今ではビーナスとガニュメデスが主催しビーナスに向かって勝ち進むスタイルのオーディションイベントに発展。ちなみにこの世界で初めての俳優・キュリアスはこれ出身。


「前回は歳下、農耕の美女神サトゥル・ローラにボロ負けでしたが如何なさいますかビーナス様!」

「潰す」

「率直な回答いただきました!!それでは今回の挑戦者をご紹介します!!」

 ガニュメデスの司会で、此度ビーナスに挑む面々が舞台に出揃う。一般客に紛れてケルビムとミーハーってたクババは圧倒された。


「エントリーNo.4!将軍マルズ夫人、ケレス・クrrrrウン!!」

 巻き舌と同時に一歩出てポーズを取るケレス。彼女は長らくこの国を守ってきたマルズの妻。長いまつ毛に黄色のきめ細かい肌、明るくそつない笑顔。ちなみに庶民家系の出ということで支持率も圧倒的。


「エントリーNo.7!前回チャンピオン、農耕の美女、サトゥル・ローrrrrラ!!」

「なんで四から始まって次が七なんですかーっ」

 ポーズとともにガニュメデスのナンバーチョイスに突っ込む九臣サトゥル。九臣のなかで一番若いというのもあるし、スポーツと農業で鍛えられた精神も人気。


「エントリーNo.一〇!心優しきみんなの父!!ユピテル・rrrrング!!」

 巻き舌で名が聞き取れないが、九臣議長のユピテル・リング。結構年配だが、目尻の下がった優しい微笑みと女性が演じる少年のような柔らかい声が温かい。左右対称の顔立ちに褐色の目がよく似合った。


「エントリーNo.一二!あのセラフィム研究所で鳥に栄養生殖をさせる遺伝子組換え実験を行いながら実家の車屋を手伝う才色兼備、ミリア・ザ・メガロドン!!」

 いつもよく着ている赤のワンピースに身を包んで”だっちゅーの”でポーズ取るミリア。あの子そんな研究してたのね。丸い顔に自信あふれる表情。女子人気が高いタイプ。


「そして最後に、エントリーNo.四三!我らがクババ女王の弟!自由気ままに飛びまくる、ウラヌス!!」

 あんたも出とるんかい。

 

「さあ改めてビーナス様意気込みを!」

「ミリアに手を出したら潰す」

「推しに過保護です!!それでは〜ケレス夫人からアピールタイム!!」


       ❤️‍🔥FIGHT❤️‍🔥


「あんたたち、私のダーリンが倒した謀反隊の数、知ってる?!」

 ケレスが誇張したモデルウォークで問う。

 そのまま”菜々緒ポーズ”で振り向き

「四三よ♡(実話)」

 とキメる。

 あの旦那基本一夜で消してくれるんで助かってる。


「まだまだあるわ!あんたたち、私が第二子出産したの、いつか知ってる?!」

 そのまま今度はジャンプからの柔らかなプリエで

「三日前♡(体力ヤバ)」

 とキメる。

 

 舞台横に設置された点数バーが動き出す。

 観客にチケットともに配った機械で点数を集計するのだ。


「おおっ!まさかの八〇点!!演出の斬新さと出産祝いで点が集まりました!!」

 うるさく解説するガニュメデス。

 

 次はローラ。


「私の美しさは、そうまるで、熟れて時を待つ果実のよう……」

 ローラが歩きながら伏せた目でしっとりつぶやく。

「( ゚д゚)ハッ!つまり……私に必要なのは”収穫ッ”」

 わざとらしい演技。なおところどころで腹筋崩壊が起こっている模様。

「私の力は、きっと王子のもとで発揮し散っていくのよ……ッ」

 スポットライトが消えてローラもフェードアウト。


 得点バーは、八二。

「ファッ?!」

「まさかまさかのケレス夫人超えー!!痛いポエムと真剣な演技の表情が評価のポイントでした!!」

 たしかに。


 その後も美貌コンテストというかコント大会みたいな発表が続く。

 得点で勝ち上がり続けたのは、同着でローラとユピテル。

「どうなるんでしょうね……」

 ケルビムがつまらなさそうに言う。この二人がビーナスと直接対決するようだ。

「さぁ……てかビーナスイチオシのミリア瞬殺やないの」

 クババはとりあえずポップコーンを口に放った。


「―まったく、もう!!!!」

 打ち上げとして、ビーナスに飲みに誘われたクババたちは街の酒場を訪れていた。

「結局ユピテルに負けたもんなぁ!!GAHAHA」

「ガハハじゃないわよ!まさか二連敗するとはね。歳かしら」

 この私が酒場のボス男に笑われるなんてっ。

 

「もすぐクババちゃんも長いお仕事で席を空けるのに」

「ベロンベロンで言われても……」

 ケルビムの車で送ってもらいながらビーナスは世代交代を匂わす。するのは構わんけど引き継ぎだけ頼むわ。


 クババは帰宅して、レガリアを外す。

 窓の外を眺めると、少しだけ勢い弱める戦火が地平線に見えた。

 世界が不穏に揺れても、笑えることは残ってる。

 それを幸せとは思わない、もっと幸せな未来のために、クババはいよいよ旅に出る。

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