第2話 ショートショート A CLOSED CLASSROOM
かなみとは何でも意見が対立した。クラスで文化祭の出し物を決めるときに、女子は缶バッジに油性マーカーで絵を描いてもらい、それを安い値段で販売して利益が出た分だけ寄付するという案を出した。
私を含めたおふざけ男子は、ちょっとエッチなクラス内カフェを提案した。女子が学ランを着て、男子がリボンをつけたシャツと超ミニスカを履いて、ウェイターとウェイトレスでインスタントコーヒーを販売すると言う案だった。
クラス委員長のかなみは、もちろん男子の案に反対で、女子の提案を実現しようとしていた。担任はやる気がなく、なんでもいいやなどとうそぶいていたので、おふざけ男子にとってはもう決まったも同然の状況だった。
私のクラスは、理系と言うこともあって、男子の方が絶対数が多い。真面目で気弱なオタク系を説得すれば、男子の案が通るのは時間の問題だった。
私は挙手して、委員長に意見を言った。
「こんなの、もう決まってるじゃん。早く多数決取ろうぜ。」
「多数決って、まだホームルームが始まって半分も経っていないでしょう。どうしてそう急ぐの?もっとみんなの意見を聞きましょうよ。」
かなみは眉をひそめて甲高い声で言った。
かなみはいつも、私の提案にイライラするようだった。しかし、授業中、彼女の方を見ると、時々私を後から見つめているのがわかった。テニス部を続けていたときには浅黒かったかなみは、3年生になって引退してから日焼けが落ち、大きな澄んだ瞳と可愛らしいとんがった唇が目立ってひときわ可愛くなった。私はかなみが大好きだった。
かなみも私のことが好きだと言うことだとわかっていた。でも、お互いに意地を張って好きだと言えず、言い争いや諍いばかり起こしていた
「もう3年生で最後の文化祭でしょ。どうして思い出に残るようなことができないの。」
かなみは私の方をきっと睨んで罵るように言った。他の女子たちもかなみに同意して、次々に男子の提案に反対する意見を言った。
担任はニヤニヤ笑いながら、後の空いた席に座り、全く関心がなかったので、事態は私の予想した通り、男子の提案が通った。
文化祭当日は、女子はいやいや学ランを着て、インスタントコーヒーを作り、私を含む男子は、超ミニスカの下にブルマをはいて、ウエイトレス役を演じ、時々スカートをめくってチラリズムを供し、客としてきた男子生徒たちの笑いを誘った。
「りょうくん、あなたって、本当にもう最低ね。それセクハラじゃん。」
かなみは、本当に軽蔑するように私を見て罵った。
「多数決で民主的に決まったものじゃないか。お前の方こそ、最低さ。」
最低と言われたかなみは激怒して、教室のドアを思いっきりの力で締めると、教室から出ていった。
「委員長なんかやめろ、この独裁者。」
私はその後ろ姿を追って怒鳴った。
それからも似たような言い争いがあり、女子の間ではどうして私とかなみがうまくいかないのか、さまざまに憶測が乱れ飛んだ。でも、私が教室の一番前の席にいて、かなみが廊下に近い後ろの席にいて、時折、私がかなみの方を気づかれないようにチラ見すると、かなみも私の方を見ていることに気がついた。
視線が合うと瞬間、かなみは下を向いた。かなみと仲の良いありさが、私にこう言った。
「かなみちゃん、いつも私にあなたの言うことやすることを話題にするのよ。きっとあなたのことが好きなんだ。私にはわかる。大好きだから、余計に意地を張っているのよ。」
私は真っ赤になって、
「ありさお前バカじゃね俺はあいつのことが大嫌いだ」
と言うと、
「何? だって真っ赤になってるじゃん。」と言い返された。
卒倒するほど恥ずかしかった。
秋の文化祭が終わり、冬の入試が済むと、私は上京し、かなみは関西圏の私学に進学した。卒業式も、お互い言葉を交わすことなく終わり、学級減で教室は閉鎖になり、10年が過ぎた。
仕事の出張で故郷に帰ってきた私は久々に高校を訪れた。大好きな物理の教師に出会うためだった。彼は私のために、閉鎖された教室を解除してくれた。
私は教室の一番前の真ん中近い自分が最後に座っていた席に座ってグランドを見ながら、思い出に浸っていた。ふと、足が机にあたり、机の中から何か音が聞こえた。中を見ると、女子の制服のボタンひとつが入っていた。そして目で追っていくと、机のなかに黒々と油性マジックで書かれている文字に気がついた。
「りょうくんのことが大好き。大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き、 かなみより。」
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